スマートフォンは大変便利な情報機器ですが、使い方を誤ると思わぬ事故を引き起こしてしまうことがあります。特に大容量のバッテリーを搭載しているスマートフォンは長時間の運用が可能になる一方で、漏電などによる発火や爆発といった事故への対策もますます重要になっています。そこで、今回は過去の事例をベースに、アリオンが推進しているMCPC充電安全認証について紹介します。
1. スマートフォンの充電電流の増加と充電事故
スマートフォンは現代社会の情報機器として、年齢・職業を問わず広く普及しています。画面の大型化、様々な機能の増加などに伴ってスマートフォンの消費電力が大きくなったため、より大きな容量のバッテリーを搭載してきました。ユーザーが眠っている間に充電を終わらせるためには、充電時間は長くても1日8時間、平均6時間以内に完了させる必要があることから、充電電流は年々増加しています。例として、2010年のUSBポートを利用した充電器が登場した頃は500-800mA程度だった充電電流が、2014年頃には1Aを越え、2015年には1.5A以上、2016年には2Aを越える充電器が登場しています。スマートフォンの充電は、USBコネクタを経由したものが一般的になり、ユーザーは汎用のUSB充電器、充電ケーブルを使えるようになりましたが、一方で低価格化のために安全に配慮しない充電器、充電ケーブルも市場で販売されています。
充電は一般家庭において、就寝時のベッドサイド、洗面所などでも行われます。充電電流が大きくなったことで、不適切な使い方や充電器の不具合による火災、やけどなどの事故が2014年から増えてきました。このような事故は、就寝中の充電での事故、また浴室・化粧室など水気のある場所での充電なども原因です。特に充電端子部分での短絡により、充電器、充電ケーブル、スマートフォン充電端子での焼損が発生し(図1)、このような事故に対する業界内(販売者、製造者)での対策が必要となりました。
図1:充電端子部の事故原因
2. 充電事故への対策
携帯端末に関する業界団体MCPCでは、このようなスマートフォンの充電事故を受けて、充電器、ケーブルなど充電に関する『USB充電インタフェース安全設計ガイドライン(MCPC TR-021)』、『モバイル機器安全設計ガイドライン(MCPC TR-023)』を発行しました(図2)。
このガイドラインは、USB充電に関する事故原因を踏まえて安全な充電器、ケーブル、携帯端末を設計し、USB充電システムでの事故を低減することを目的としています。
ガイドラインで、定められた安全設計のための要求には、次のようなものがあります。
1)USB充電ケーブルの端子における焼損事故防止機能
図1にあるような端子部分でのショートによる温度上昇が発生した場合に、充電を中止する(温度センサー、温度ヒューズ等による対策)。
2)過電流防止の為の充電器IV特性
過電流防止の為の保護機能を持ち、定格電圧より低い領域で定電流領域を持たない。
3)異常状態での過昇温の保護機能
ベッドサイドでの充電では、充電器に夜具がかかった状態が発生する可能性があることから、外気の対流が起きない状態での充電でも過昇温を起こさない。
図2:ガイドライン表紙
3. MCPCモバイル充電安全認証
MCPCでは、2016年よりガイドラインに適合した製品に対して認証試験制度を開始しました。アリオンは試験仕様策定から参加し、唯一の認証試験会社としてUSB充電器、充電ケーブル、アダプタなどの認証試験を行っています。この認証試験は、日本国内のキャリアの純正品だけでなく、汎用のUSB充電器、充電ケーブル、モバイルバッテリーなどの開発会社、海外からの輸入販売会社なども、一般消費者への安全な製品の証として受験をする事例も増えてきています。またコモデティ製品だけでなく、車載のUSB充電端子用のモジュール、USB充電ポートを持つ車載器などの受験も行われています。
認証合格製品は、ガイドラインに適合した安全な製品の証として、MCPCロゴを添付することができます。今後、認証を取得した製品はMCPCのWEBページやイベントで認証取得済み製品として紹介する計画です。
図3:認証製品とMCPCロゴ
アリオンでは、以前からUSBIFが定めるUSB Power Delivery(USB PD)などの充電規格への適合性試験、ケーブル、コネクタに対するUSB認証試験を提供してきた実績があります。MCPCモバイル充電安全認証試験により、USBを利用した充電システムに対する、安全性確認を含めた総合的な確認が可能となっています。試験のご相談、USB認証試験と併せた実施など、ご予定があればお気軽になくお問い合わせください。