アリオンはSSD分野における検証実績を豊富に持っています。今回は産業用コンピュータ(IPC:Industrial PC)で使用されるSSDの品質検証とパフォーマンス検証についてご紹介いたします。
産業用コンピュータとSSDを取り巻く環境とは
産業用コンピュータは現代社会において、自動車・ゲーム機器・航空・医療・軍事・通信・サーバ設備といった幅広い分野で活用されています。ガートナー社の調査によると、2014年では1200万台だったIPCの出荷台数は、2017年には1500万台近く出荷されると予想されており、およそ3年で25%もの成長を遂げる分野であると見込まれています。
そんな中、世界経済の中でも存在感を示しているのが中国市場です。中国では90年台からIPC分野に積極的な参入を続けており、IPCベンダーが続々と誕生しました。中国市場と世界市場におけるIPCの発展比率の比較(図1)を見ると、中国市場ではインフラ整備とエネルギー分野への投資が大きな比率を占める一方で、医療設備への投資比率が低いことが分かります。2014年時点で、中国政府は鉄道システムの構築を36都市で計画しており、中国国内のIPCベンダーがその開発を担いました。各大都市の鉄道システムへの投資金額は5億7000万人民元(日本円で約109億円)にのぼる見通しです。
IPC市場 | 世界市場比率 | 中国市場比率 |
産業自動化 | 48% | 21% |
インテリジェントサービス | 8% | 11% |
鉄道・インフラ | 12% | 40% |
通信 | 7% | 10% |
医療 | 12% | – |
エネルギー | – | 13% |
その他 | 13% | 5% |
図1:中国市場と世界市場におけるIPC発展比率 出展:金勝電子2014技術検討会報告書
SSDは、IPCにおけるストレージメディアとしてこれまで主流だったHDDに代わり幅広く採用されています。これは、HDDと比べて安定性が高く、データの読み書きが速く、また長寿命である、といった数多くのメリットを備えているからです。ガートナー社が調査したデータによれば、産業の自動化を主な用途目的として出荷されたSSDの台数は、2017年には1209万台という規模に成長すると目されています。SSDの平均ストレージ容量についても、22.7GBから57.7GBに拡張すると報告されており、SSDの技術的な発展はIPC市場の発展をけん引するものと考えられています。
図2:2013-2017 IPC用SSDに関するデータ 出展:ガートナー社
SSDの技術動向と検証ソリューション
SSDを構成するNAND素子には、SLC(Single-Level Cell)とMLC(Multi-Level Cell)の二種類があります。SLCの長所としては、データ転送速度が高速、書き換え可能回数が多い、電力消費量が少ないなどが挙げられますが、その反面で1ビット当たりの記録容量が少ないため生産コストが高くなるといった短所があります。一方、MLCは1ビット当たりで多くの情報を記録できるため生産コストを下げられますが、短所として転送速度が遅い、書き換え可能回数が少ない、電力消費量が大きいなどが挙げられます。IPCベンダーはSLCとMLCを用途によって使い分けており、容量の小さい製品にはSLCを導入し、中・大容量を利用する場合にはMLCを導入しています。SSD製造コストのうちNAND型フラッシュメモリが全体の90%のコストを占めているため、こうした技術の使い分けはIPCベンダーにとって重要なポイントの一つとなっています。
製品小型化の流れに伴い、SSD技術は発展を続けています。NAND FLASHプロセスは3X nmから2x nmへと発展しており、製造コストは減少し続けています。しかし、誤り検出訂正数(ECC:Error Checking and Correction)は徐々に高まっており、これに伴ってP/Eサイクル(P/E Cycle:Programming/Erase Cycle)も低下しています。その問題はMLCにおいて特に顕著に現れています(図3:右)。
図3:SLC, MLCにおけるP/Cサイクル及びECCビット
MLCにおける諸問題を解決するために、SSDベンダー各社はiSLCやA+SLCと呼ばれる新たな技術の研究開発に力を注いでいます。これらの技術により、従来のMLCと比べ寿命が10倍近く長くなり、またデータ読み書きのパフォーマンス・安定性についてもSLCに迫るようになりました。
ストレージ機器のデータ転送インターフェースについても、より転送速度が速いSATA IIIやPCIe Gen IIIなど発展を続けています。また、スマートフォンやタブレットといった小型端末など、SSDに対する様々なニーズに応えるために、2.5インチサイズ、Half Slim、M.2、uSSD、SFF SSDといった多様な形式のSSDが開発されてきました。中でも動作環境が特殊な産業用SSDは、高い品質と安定性に加えて、耐震/防塵/高温耐性など一般向けのSSDよりも更に厳しい条件が求められます。
アリオンではIPC向けSSDで考慮すべきポイントを以下の4点にまとめました。
1.ファームウェアの信頼性
データ読み書きのパフォーマンス、給電中断によるデータ消失問題、メモリ信号エラー、など
2.ソフトウェア・ハードウェアの互換性
様々なOS(Windows, Linuxなど)とアプリケーションと互換性を保つこと
3.メモリ品質
シリコンウェハの選定、製造技術に関わらないメモリ品質の影響について
4.SSD全体の品質
インターフェースの転送速度、EMI/ESDへのPCBA設計を備えているか、など
ポイント1と2はソフトウェア・ハードウェアの側面から検証し、ポイント3と4はハードウェアに関わる部分を検証します。
アリオンでは産業用SSDに対する基本的な検証手法を開発しています。ハードウェアテストには、DDRメモリ信号管理、NAND FLASH管理、消費電力試験、コンポーネント検証およびインターフェース試験などがあります。この中で電力消費試験としては、スリープモード(アイドル状態など)測定、4Kランダム読み書き、64/128K連続読み書き電力消費測定、温度測定、受動素子定格負荷軽減試験(Capacitor/Resistor/Inductor De-rating Test)などがあります。これらに加え、インターフェース関連の物理層とプロトコル層の試験、コンプライアンス試験とプラグ着脱試験も重要なポイントです。
ファームウェアの信頼性試験としては、電源中断時のデータ保護試験(PLP)、P/Eサイクル試験などがあります。フラッシュメモリ変換レイヤの破損や、不良ECCなどによるデータ消失といった事故を予防するためには、長時間のストレス試験および寿命耐久試験を行い、SSDが保護メカニズムを備えているかどうかを確認します。アリオンでは、CDM、AS SSD Benchmark、HD Tune、ATTO Diskといった基本的な試験ツールから、IO Meter、VDBench、Microsoft StorScoreといったI/Oパフォーマンス測定ツールによる測定データを提供できます。これらに加え、アリオン内部のUX検証チームによって設計されたシナリオ試験では、ソフトウェアとハードウェアの互換性問題を解決へと導きます。
現在、IPCはクラウドサービスに向かって発展しており、SSDはHDDに代わる新たなエンタープライズサーバのコアストレージとしての役割を担い始めています。これまで以上に高速なデータ転送速度、IOPS、レイテンシによって、ファイル管理やメール処理、システム処理といったエンタープライズレベルの情報処理が行われ、更にオンライン処理など(図4)多岐に渡る役割を担うようになりました。こうしたサーバに使用される産業用SSDは、一般向けSSDと比べてより高度な検証が必要となります。エンタープライズレベルに対応したパフォーマンス試験は、オンライン取引を中心としたMySQL試験、VMmark、VMware、SPECvirt、Login VSLといった仮想化試験など、その種類は様々です。ストレージ設備検証に関する更なる情報については、エンタープライズ向けストレージの傾向とSSD性能検証をご参照ください。
図4:用途が多岐に渡るエンタープライズサーバ
SSDはHDDと比べて、安定性が高い、寿命が長い、機械的な構造問題が少ないといった数多くの長所を備えているため、多くのIPCベンダーに幅広く利用されるようになりました。その一方で、フラッシュメモリ変換レイヤの破損や、不良ECCなどによるデータ消失といった製品の品質に関わる事故を防ぐために、様々な角度から検証を行うことが求められています。アリオンのSSD検証チームはSSD市場の動向を把握しており、ポイントを押さえた検証サービスを提供可能です。製品評価のみならず、マーケティング支援として競合他社製品とのベンチマーク試験も実施しています。また、主要SSDベンダーとの共同検証ならびに技術コンサルティングを新製品に対して毎年実施しております。
アリオンは包括的なSSD品質検証サービスを提供することにより、IPCベンダー各社のさらなる発展に寄与してまいります。
お問い合わせ先
E-Mail: service@allion.co.jp
SSD品質検証サービス:http://www.allion.co.jp/storage.html
Web窓口フォーム:http://eservice.allion.com/allion/jp/feedback.asp