前回、前々回と過去二回に渡って試験を実施したアリオンの試験チームは、オーディオ雑誌が楽曲の中でくちびるを前歯で軽く噛む音や呼吸音について論じているのを発見しました。これらの微弱な、一音節の末尾音は、歌曲録音の中に確かに存在します。しかし、通常のPC音質評価測定では、測定スタッフは、普通の人が話をするときの音量(-20dBFS)、または雑音のような低電位(-60dBFS)を最大信号として入力し、試験のときの周波数はほとんどが10KHzでした。これが、試験チームが三回目の試験を実施する際の出発点となりました。
今回の試験では、定型化された音質試験ではなく、測定装置の機能により測定項目を組合せて設計しました。以下の三つの部分に分けて紹介します。
1. Level Sweep vs Frequency(レベルSweep vs 周波数)
2. -40dBFS THD+n vs Frequency(-40dBFS THD+N vs周波数)
3. 90sec. Noise Recording(90秒ノイズ録音)
測定の要求事項の関係で、測定装置はより多機能のAudio Precision APX585を用い、信号発生器に信号ソースを生成させました。
1. Level Sweep vs Frequency
周波数の異なる信号(10Hz、20Hz、100Hz、500Hz、1KHz、5KHz、10KHz、20KHz、40KHz)を選択するとともに、各信号の減衰の変化を0dBから-120dBに設定して測定対象に入力し、出力反応を観察しました。コンデンサの種類別のパフォーマンスは以下のとおりです。
アルミ電解コンデンサ
固体電解コンデンサ
この試験項目においては、入力周波数40KHzのとき、増幅が-120dBFSまで減衰すると、材質の異なるコンデンサの間で差異が見られました。アルミ電解コンデンサの場合、出力の落ち込みは-90dBまでにとどまりますが、固体電解コンデンサだと0dBFSから-100dBFSまで落ち込み続け、-100dBFSの時点で、両者の出力には10dBの差がつきます。このことは、40KHzの信号入力という条件下においては、アルミ電解コンデンサの性能は固体電解コンデンサほど良くないことになります。
下図は、40KHzのときにおける二種類のコンデンサのパフォーマンス比較です。
2. -40dBFS THD+N vs Frequency
-40dBFSの信号はあまり用いられませんが、今回はこの振幅の入力信号を用いて、くちびるを前歯で軽く噛む音や呼吸の音(小さいが、雑音の電位にまでは達していない)をシミュレートし、その出力信号の全帯域における歪みを見ていきたいと考えています。
-60dBFS
-60dBFS信号を入力すると、二種類のコンデンサ間における差は0.5 dBしかないため、この程度の差であればダイナミックレンジ(Dynamic Range)計測時には誤差とみなされます。ところが、-40dBFSだと両者の差は1dBにまで広がります。これは、両者の間で歪みのレベルに差異が存在することを意味しています。微弱ではありますが、雑音ほどでもないときに限って差が見られるわけであり、この項目における固体電解コンデンサの歪みレベルのほうが1dB低いことが分かります。
-40dBFS
3. 90sec. Noise Recording
これまで述べてきたとおり、アリオンでは数多くの試験を行ってきましたが、ユーザーがオーディオ製品を評価するのは耳で聴こえるすべての音です。よって最後に、出力ポートの電位を監視した後で、システムのステータスを変えてみました。
アルミ電解コンデンサ
固体電解コンデンサ
上図の試験結果によると、アルミ電解コンデンサと固体電解コンデンサの特性は、システムステータスが変化するときに最大となるようです。アルミ電解コンデンサは、システム終了または起動時に電位が高くなるとともに、このときに出るポップノイズと電位の差も大きくありません。一方、固体電解コンデンサの電位は低く、ポップノイズとの差も大きくなります。しかし、両者で発生するサージの最高点はほとんど変わらず、特にシステム起動時のポップノイズは、Hi-Fiアルミ電解コンデンサを用いるよりも、固体電解コンデンサのほうが5dBも少ない結果となりました。
第三回試験結果
第三回試験において、試験チームは独自の方式で、固体電解コンデンサとアルミ電解コンデンサがオーディオ製品の出力音質に与える影響を測定ました。その結果、それぞれの特性が確かに影響しており、固体電解コンデンサを搭載した装置の出力音声のほうが優れているのがわかりました。
ここで固体電解コンデンサの特性について以下のとおり述べます。下図のようなコンデンサ等価回路があります。AとBは音声出力の接続ポートです。
ESRは固体電解コンデンサのほうが小さいですが、このような回路の場合は無視してしまって構いません。「固体電解コンデンサ:アルミ電解コンデンサ=0.5 Ohm:2 Ohm」と、固体電解コンデンサのESRは数倍になりますが、これは音質に影響するに及ばない微妙な差です。
もうひとつ考えられるのが、固体電解コンデンサの漏れ電流です。測定を実施したとき、漏れ電流のために出力負荷がアイドル状態になる、あるいは音質に悪影響を与えるのではないかという懸念がありましたが、結果的に漏れ電流の影響はありませんでした。
最後に、「コンデンサ容量vs. 周波数」の関係についてです。アルミ電解コンデンサの特性曲線は、高周波にさしかかると容量が劇的に変化し、周波数が高くなると容量が大幅に減衰します。しかし、固体電解コンデンサのほうは高周波帯域においても容量は安定しており、この点にでもアルミ電解コンデンサよりも優れているといえます。
アルミ電解コンデンサの特性曲線
固体電解コンデンサの特性曲線
今回の音質試験の中身を振り返ると、試験全体を設計していく上で、音質判定のベストソリューションを探るため、容量と耐圧が同じアルミ電解コンデンサと固体電解コンデンサが音質に与える影響を比較するというのが、試験チームの掲げたポイントでした。
第一回試験では、標準的な音質測定項目を用い、内容的には、帯域幅を人の耳が識別可能な20Hz-20KHzに絞り、システムデコーダーの音声信号サンプリングレートも、最もよく使われる44Kと48Kの二種類にして実測した結果、差を見出すことはできませんでした。
第二回試験では、サンプリングレート192KHzのデジタル音声信号を信号ソースとしました。192KHzの音声信号は理論上、90KHz前後の周波数を出せることから、試験チームが特別に周波数80KHzまで出せるSweep信号を製作するとともに、周波数を80KHzに設定しました。この過酷な条件下で音質の測定を実施した結果においても、歪み、減衰、雑音のレベルはいずれも低く、固体電解コンデンサ搭載だからといって特に優れている、というわけではありませんでした。
第三回試験は、コンデンサのパフォーマンスの差を見つけ出すために、測定装置に備わった機能を利用して、以下の三つの測定変数の組合せを独自に設計しました。
これらの測定結果により、低周波、高周波を問わず、オーディオ装置に固体電解コンデンサを用いると、オーディオ専用のアルミ電解コンデンサ搭載よりも優れていると言えることがわかりました。オーディオの世界では、音質の良し悪し、音声のレベルを判定する際は「Golden Ear」プログラムを利用することが知られていますが、アリオンの測定方法も、音質の良し悪しを実証する方法のひとつです。測定結果から、数多くの差異の存在が証明されたのでした。
アリオンではこうした研究を継続し、測定を通して優劣の検証に協力することで、効果的な測定方法を数多く提供して参ります。音質測定試験に関するご質問、測定依頼のお問合せにつきましては、当社(service@allion.co.jp)までお問合せください。
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