PC関連産業の市場が飽和状態となるにつれ、高音質設計へと舵を切るマザーボードメーカーが増えてきています。その結果、昨今では高音質対応のマザーボードが一般消費者市場に普及し、高音質モデルを謳う部品や付属品の販売が増加しています。
今回、アリオン(Allion Labs, Inc.)は、オーディオ業者がよく口にする、「耳あたりがよい」、「クリアな」、「深みのある」といったサウンドが、試験を通して結果を表すことは可能かどうかをテーマとして検討しました。今回の試験においては、特性の異なるコンデンサに対して測定装置を用いて様々な角度から音質の計測を行い、音質関連の測定項目の相違について明らかにしたいと思います。
測定情報:
測定装置 | AUDIO Precision SYS-2722& AP585 |
対象 | 規格容量の等しい100uF/6.3V アルミ電解コンデンサと固体電解コンデンサ |
Test Bed | Asus Z97-Kマザーボード |
測定のポイント:2種類のコンデンサをマザーボードに取り付けて、音質の差異と影響を計測
測定項目:以下の7項目
1. フルスケール出力電圧(Full Scale Output Voltage)
動作レンジ内における最大出力電圧を測定します。通常は、歪みのレベルがオリジナル信号の1%を超えたときが、出力強度が製品の動作レンジを超えたときであり、音声信号の波形がクリップされ、音割れといった好ましくない影響が出現します。音の歪みの検査の場合、人の耳が識別できない周波数レンジ外の歪みや雑音まで計算されます。そのため、測定装置のハイパスフィルターとローパスフィルターを用いて周波数を10Hz-22KHzのレンジに制限し、THD+N=1%以下で測定された最大出力電圧を用いて、他の試験項目の参考電圧とします。
2. THD+N(全高調波歪み+ノイズ)(Total Harmonic Distortion+ Noise Frequency)
理論上、音声信号が転換されて出力されるとき、非線形歪みが生じます。言い換えると、周波数1KHzの信号を入力すると、その2の倍数の周波数(2KHz、4KHz)で高調波が生じます。また、オリジナル音声信号が高調波とともに出力されると、オリジナル音声信号とは異なってきます。これが高調波歪みです。
3. ダイナミックレンジ(Dynamic Range)
ダイナミックレンジとは、ひとつの信号における最大信号強度と、最小歪みまたは雑音の比であり、16bitのデジタル信号だと、理想的な最大値は-96dBとります。この項目はS/N比(SNR)と混同されやすく、両者の結果の数字は似通っていますが、測定の方法が異なります。オーディオの世界では-60Dbfsの微弱信号をよく用いますが、おそらく微弱信号を入力する方が実際の使用状況に近いからでしょう。しかし、そのときに発生する歪み(正常な状態だと、これくらいの微弱な信号から生じる歪みはノイズにほぼ等しい)と、歪みのない真の信号の最大値とを比較したとき、この歪みと参考値の隔たりの比がダイナミックレンジに当たります。このほか、データ計測するときはA特性周波数で重み付けされたフィルター曲線を通して、高周波と低周波の信号エネルギーを削るのが常識です。この曲線は、人の耳の周波数に対する敏感度から導き出した曲線であり、この曲線を通して、耳が識別できない帯域における歪みや雑音を削っているわけなので、測定の結果はかなり下駄を履かされることになります。
4. システム動作中のノイズレベル(Noise Level during system activity)
ノイズは製品によって生成、入力される音声信号とは無関係です。S/N比が測定される意義は、歪みのない真の信号の最大値と雑音の比を知ることですが、オーディオを実際に使うとき、無信号の状態になることはほとんどないことから、ダイナミックレンジの方がS/N比よりも実際に近い。しかし、同様の測定方法を監視システムに適用するのは、便利で、多様性をもたらす。検査システムが特定の行為のときに、どれだけの電位を出力したか、このときの参考値のデシベル数はいくらかなど、数多くの別の目的に応用できる(たとえば、監視システムを再起動したときに大きな音が発生するか、など)。
5. 周波数応答(Frequency Response)
非線形を検査する最も直接的なやり方は、強度-20dBFS(Follow AES17)の全帯域(20Hz-20KHz)を出力した後、測定装置を用いて周波数ごとの出力電圧の安定性やパワフルさ、減衰やジッター過剰の状況を観察する方法です。部品や回路設計の不良はいずれも信号通過後にある周波数で減衰が起きていることから、大きな歪みも別の減衰を引き起こします。たとえば、15KHzで大きく歪みが起きると、信号に歪みが加わるエネルギーが大きくなりますが、15KHz以外の周波数では小さくなります。そして、15KHzの電位をゼロにすると、グラフ上では他の周波数に減衰が起きます。
6. クロストーク対周波数(Crosstalk vs Frequency)
セパレーションとも呼ばれるクロストークは、二つのチャンネルで信号が漏れる程度を検査することです。アナログ信号の出力では、クロストークは避けられません。ユーザにとって厄介な点は、いわゆる立体サウンドではチャンネルごとに伝わる信号と位相がすべて異なるところにあります。混信の程度が一定レベルを上回れば、立体感と音場の定位感が不明瞭になります。試験では、-20dB全帯域で左チャンネルに音があり、右チャンネルには音がない立体サウンドと、その反対の場合を用意します。左右いずれかのチャンネルに信号がない、あるいは信号がごく微弱である場合を想定します。
7.チャンネル間の位相の遅れ(Inter-channel Phase Delay)
オーディオシステムは、各チャンネル間で位相が一致しているのが理想的です。位相の測定に当たって、ひとつの波形信号と、もうひとつの波形信号を検査し、ある時間サイクル内におけるラグを調べます。位相差にはいろいろな場合がありますが、ここではチャンネル間の位相差のことであり、単位は角度の「度」です。この測定のポイントは、信号が入って出力されるとき、チャンネル間で同期せずに遅れが発生するか否か、です。位相と電位はほぼ無関係であり、Audio PrecisionのPC関連製品測定レンジ内の設定に従って、全帯域-6dBFSの信号を用いて、周波数ごとに位相のずれが発生する状況を全面的に検査します。
測定項目の詳細を理解したところで、アリオンが実施した第一回試験の結果は以下のとおりです。
1. フルスケールとサンプリング周波数(Full scale and Sampling Frequency Accuracy)
この製品の合格基準は、歪み1%以下で1Vrms以上の出力があることです。実際、0dBFSの信号を出力した後、ボリューム最大にしても0.012%の歪みしかなく、1%未満でした。歪みが0.2%を超えると、波形が明らかに異なってきます。サンプリング周波数も規定の0.02%以下であり、コンデンサを取り替えても、顕著な差はなかったといえます。
2. THD+N対周波数(Total Harmonic Distortion Amplitude Plus Noise vs Frequency)
アルミ電解コンデンサ(48K オーディオ)
固体電解コンデンサ(48K オーディオ)
アルミ電解コンデンサ(44K オーディオ)
固体電解コンデンサ(44K オーディオ)
この製品の合格基準は、20Hz-20KHzの帯域内で、THD+Nが-80dBFS以下であると同時に、Re-sample errorがないことです。コンデンサを取り替えても、この項目に顕著な差は見られませんでした。
3. ダイナミックレンジ(A特性重み付け)(Dynamic Range (A-Weighting)
この製品の合格基準は、A特性周波数の重み付け後のデータが-90dBを下回ることです。コンデンサを取り替えると約1dB低くなっていますが、計測データのぶれという誤差を計算に入れると、ほぼ差はなかったといえます。
4. システム動作中のノイズレベル(A特性重み付け)(Noise Level during system activity (A-Weighting))
この製品の合格基準は、A周波数特性の重み付け後のデータが-90dBを下回ることです。コンデンサを取り替えると約1dB低くなっていますが、計測データのぶれという誤差を計算に入れると、ほぼ差はなかったといえます。
5. 周波数応答(Frequency Response)
アルミ電解コンデンサ(48K オーディオ)
固体電解コンデンサ(48K オーディオ)
アルミ電解コンデンサ(44K オーディオ)
固体電解コンデンサ(44K オーディオ)
この製品の合格基準は、ローバンドでの減衰が3dB未満、ハイバンドでの減衰が1dB未満、パスバンドでのリップルが±0.25dB以内です。コンデンサを取り替えても、この項目に顕著な差は見られませんでした。
6. クロストーク対周波数(Crosstalk vs Frequency)
アルミ電解コンデンサ(48K オーディオ)
固体電解コンデンサ(48K オーディオ)
アルミ電解コンデンサ(44K オーディオ)
固体電解コンデンサ(44K オーディオ)
この製品の合格基準は、20Hz-15KHzの帯域内で、二つのチャンネル間での信号漏れが-60dBFS未満です。コンデンサを取り替えても、この項目に顕著な差は見られませんでした。
7. チャンネル間の位相遅れ(Inter-channel Phase Delay)
アルミ電解コンデンサ(48K オーディオ)
固体電解コンデンサ(48K オーディオ)
アルミ電解コンデンサ(44K オーディオ)
固体電解コンデンサ(44K オーディオ)
この製品の合格基準は、20Hz-20KHzの帯域内で、二つのチャンネル間の位相角度のずれが30deg未満です。計測結果によると、コンデンサを取り替えても、この項目に顕著な差は見られませんでした。
第一回試験の結論
試験の結果、今回の試験対象となったいわゆる高音質マザーボードは、確かに高音質の測定結果を示しており、Windows Logo ProgramにおけるPremium Desktopクラスの音質基準(最高レベル)に適合していることが確認できます。
アルミ電解コンデンサと固体電解コンデンサの音質比較では、各項目の測定データが似通っており、差異を見出すまでには至りませんでした。つまり、測定の手法から音質を証明しようとしましたが、今回の試験ではそれを果たすことができませんでした。
アルミ電解コンデンサと固体電解コンデンサは、どのような状況で差異が出てくるのか。次回では条件と手法を変え、新しい測定手法で音質の差異を引き出してみたいと思います。
第二回試験の結果は、コンデンサ 音質評価分析(中)非標準高レベル試験における差異 をご参照ください。