Allion Labs / Greg Tsai
アクティブノイズキャンセリング(ANC)ヘッドフォンの発展の歴史
「アクティブノイズキャンセリング」(Active Noise Canceling、ANC)は、スピーカーを使用して、ノイズと同じ音量で逆位相の音波を発生させ、ノイズを除去する技術です。
通信アプリケーションで、ANCヘッドフォンは非常に重要な役割を果たしています。1936年アメリカでポール・リューグがANC技術の特許を提出し、1955年にはANCヘッドフォンに関する研究が始まりました。そして1989年Boseが初めてとなるANCヘッドフォンを発売しました。近年TWSヘッドフォン(True Wireless Stereo)が人気を集める中、2019年にはApple AirPods ProがANC機能を搭載したことで、ANCヘッドフォンが本格的に世間の注目を集めるようになりました。
通信システムにおけるノイズ制御の識別と解析
様々な通信システムに応じて、関連するノイズキャンセリングのニーズシナリオは3つのタイプに分類されます。
1. 「話す側」の背景ノイズを除去する
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送信される信号をクリアにすることが目的で、この技術の恩恵を受けるのは遠く離れた場所にいる受信側です。
以下、このタイプのシーンで使われているものです。
- 指向性マイク
- マイクアレイ
- 骨伝導マイク、インナーイヤーマイク
- 音声分離アルゴリズム
2. 発信側から送信される信号に混入するノイズを「受信側」で除去する
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このノイズキャンセリングのタイプは、主に発信側から送信された信号のノイズを受信側が除去するためのもので、この技術の恩恵を受けるのは受信側です。音声信号とノイズが既に混ざってしまっているため、純粋なソフトウェアアルゴリズムの技術でしか音声信号とノイズを分離できません。
以下の技術がこのタイプのシーンで使われています。
- 音声分離アルゴリズム
3. 「受信側」の背景音響ノイズを除去する
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受信側がこの技術の恩恵を受けることで、周囲の環境から干渉を受けることなく、離れた場所からの音声をクリアに聞くことができます。
以下の技術がこのタイプのシーンで使われています。
- パッシブノイズコントロール(機構による音の隔離)
- アクティブノイズコントロール(Active Noise Control、アンチノイズによる音のキャンセリング)
したがって、次の図で示す通り、完璧な通信ノイズキャンセリングのソリューションには、上述した3つのテクノロジーを同時に組み込む必要があります。
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また次の目標を達成しなければなりません。
1. 発信側からのノイズが受信側に伝わらないようにする
2. 発信側と送信プロセスで発生したノイズを、受信側が除去できるようにする
3. 受信側の周囲の騒音を抑制し、受信側でクリアに聞こえるようにする
以上の分析プロセスから、市販されている一般的なANCヘッドフォンは、上述したノイズキャンセリング技術のうち、実は3つ目のタイプしか搭載していないことが明確に分かります。
よって、この記事では主にANCに焦点を当てます。
アクティブノイズキャンセリングの基本原理
最初のノイズキャンセリング技術は、1936年ポール・リューグが提出したアメリカの特許で、パイプのノイズ除去に使用されました。当時の特許図は以下の通りです。
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まず、パイプ内で音波がどのように伝播するかを見てみましょう。パイプ内での音波の伝播は、下の図が示すように、ピストンが前進すると、空気粒子が圧縮されてパイプ内より高い圧力領域が形成され、ピストンが後退すると空気粒子がまばらになります。このプロセスが繰り返され、特定の位置(赤い点など)で、時間とともに変動する圧力の変化の波形を観察することができます。
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そこで、ポール・リューグのアイデアは、パイプ内にマイクを配置して上流側のパイプの音圧を取得し、下流側のスピーカーで「大きさが同じで逆位相」の音波を発生させ、下流側のパイプのノイズを除去することでした。
音波の相殺的干渉に関して、以下の図でこの現象をより具体的に説明することができます。
一般的に「ダイポール(Dipole)」と呼ばれるこの現象は、位相が逆の2つの点音源が相互に作用して形成される音場です。中央の垂直領域では、左右の波の位相が逆であるため相殺的干渉が発生し、残存音圧がほぼゼロになっていることが分かります。
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このことから分かる通り、ノイズキャンセリング製品でアクティブノイズキャンセリング効果を得るには、適切な設計を行う必要があります。
ノイズキャンセリングヘッドフォンの基本コンセプトは下の図の通りです。
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以下に示すように、通常アクティブノイズキャンセリング技術は単独で存在できないため、良好な効果を実現するためにはパッシブ遮音技術と組み合わせる必要があります。
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パッシブ遮音は主に遮音材の特性に依存し、高周波ノイズに対して比較的良好な効果を発揮します。パッシブ遮音で低周波ノイズを処理する場合、遮音材の体積が非常に大きくなります。
逆に、アクティブノイズキャンセリングは相殺的干渉の原理により低周波音をより効果的に処理することができます。そのため、パッシブ遮音とアクティブノイズキャンセリングは互いに補完的な役割を果たしています。
したがって、ANCヘッドフォンのノイズキャンセリング/遮音能力について語る時は、パッシブ遮音とアクティブノイズキャンセリングの能力も考慮する必要があります。
アリオンのノイズキャンセリングヘッドフォンテスト環境の構築
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ノイズキャンセリングヘッドフォンのノイズキャンセリング性能を評価するために、テスト対処(DUT)を音響人形(HATS)に配置します。その後、人工的な耳を通してノイズキャンセリング前後の音量(つまり挿入損失)を測定し、ノイズキャンセリング性能を評価します。
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図:実際の設置写真
耳の位置の音圧を基準にして、以下の条件でテストを実施した上で計算を行い、ノイズキャンセリング性能を評価します:
- ヘッドフォンを着用していない状態で、人工耳が受け取る音圧値を測定する
- ANC機能をオフにしてDUTのヘッドフォンを装着し、純粋なパッシブ遮音性能を測定する
- [DUTのヘッドフォンをHATSに装着したまま] ANC機能をオンにして、ANCをオンにした後のノイズキャンセリング性能を測定する
上記の2から1を減算すると、パッシブ遮音性能の結果を得ることができます。また、3から2を減算すれば、純粋なアクティブノイズキャンセリング性能の結果だけを得ることができます。
実際にANCヘッドフォンをテストした結果
以下の図は、例としてL社製のヘッドフォンのANCテスト測定結果を表したものです。
テスト1
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図1はパッシブ遮音効果の結果で、確かに高周波の遮音能力が優れていることが分かります。2kHzを超えると6dB以上の減衰があり、最高で7kHzでは33dBの減衰があります(オレンジの枠部分)。しかし、低周波ではパッシブ遮音効果が弱まり、音量がわずかに大きくなってしまうこともあります(緑の枠部分)。
テスト2
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次に、図2はアクティブノイズキャンセリングの性能を示しています。アクティブノイズキャンセリングが、主に低周波ノイズに対して効果的であることがわかります。
この製品の場合、600Hz以下で2dB以上の減衰が始まり、230Hz前後で最大約-10dBの減衰が見られます(オレンジの枠部分)。
テスト3
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図3は実際にANCをオンにした後のノイズキャンセリングの総量を示しており、低周波では230Hz前後で約10dBのノイズキャンセリング効果が、6kHzでは約39dBのノイズキャンセリング効果がそれぞれあることが示されています(青の枠部分)。
競争激しい本当のワイヤレスヘッドフォン市場で、ANCのビジネスチャンスをどのように先取りするべきか?
活況を呈し急成長を続けるANCヘッドフォン市場において、音質だけでなく、環境ノイズのフィルタリングと除去も、ユーザーエクスペリエンスを向上させるための重要なカギとなっています。近年、ノイズキャンセリング機能は消費者の購買指標の一つとなっており、様々なメーカーがANCをビジネスチャンスと捉え、互いに競い合っています。
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