Allion Labs/ Alvin Tsai & Chris Wu

前2回のシリーズ文章では、TR-398規格内のテストカテゴリーである「受信機感度」と「伝送容量」及びそれぞれのテスト項目を簡単に紹介しました。それを通じて、TR-398規格の背景や意義及びテスト環境構築要件を印象強く理解いただけたでしょう。今回は、テストカテゴリー3の「カバー範囲」及びテストカテゴリー4の「マルチユーザーサポート」内の5つの必須項目及びそのテスト例を紹介します。

カテゴリー3:カバー範囲(Coverage)

3-1.カバー範囲テスト(Range Versus Rate Test):必須項目
Wi-Fiデバイスの基本チャンネル及びRF接続性能を測定することを目的とし、システム内で信号減衰器の使用を通じて距離増加による信号減衰を具現化します。

テスト例

テスト例:

このテストでは、信号減衰を利用して接続距離の増加をシミュレーションした結果、2.4GHz 20M帯域幅の時は、このAPがほぼあるべき基準に達することができず、パフォーマンスも予想通りにならなかったのに対して、5GHz 80MHzの時は、パフォーマンスが良好で、あるべき基準以上に達することができました。

テスト基準

テスト基準:

測定された平均スループットは、下表のパフォーマンス要件を満たさなければなりません。このテストでは、各設定のうち、下表のスループット要件を下回る測点が2個まで許容されます。

Wi-Fi Configuration (DUT)Wi-Fi Configuration (Peer STA)Bandwidth (MHz)Attenuation (dB)Throughput Requirement (Mbps)Attenuation (dB)Throughput Requirement (Mbps)
DLULDLUL
802.11n (Nss=2)802.11N (Nss=2)200100100427575
10100100484531
21100100484531
24100100513524
27100100542517
30100100571412
33100100571412
3695956384
398080
802.11ac (Nss=2)802.11ac (Nss=2)80056056042100100
10530530454545
21420420482525
244004005155
273602605411
3030030057
3322022060
3615015063
39125125

 

3-2. 360度方向性テスト(Spatial consistency test):必須項目

360度方向性テストは、「空間的一貫性テスト」とも呼ばれます。空間中のWi-Fi信号一貫性の検証を主な目的とし、テスト対象物(DUT)がシステム(STA)に接続されている時の平均パフォーマンスを測定するテストです。

一般ユーザーは、主に壁面のネットワークコネクタに近づけるため、Wi-Fiルーターを部屋の隅角部に置きます。ただし、これによって、直接距離が比較的遠い位置(特に、電波が自宅内の壁を通リ抜ける必要がある位置)の信号が不良になります。普通のアンテナから発射された電波が円形の放射状を呈すため、通常ルーター1台だけの場合は、中心位置に置くと、最も良好なカバレッジを得ることができます。

 

テスト例

テスト例:

360度方向性テストの結果からわかるように、このAPの左右両側の電波が比較的弱く、2.4GHzも5GHzもこのような状況になるため、ハードウェア或いはアンテナ自体の設計に欠陥がある可能性があります。

テスト基準

テスト基準:

各角度で測定された平均スループットは、下表の要件を満たさなければなりません。

Wi-Fi Configuration

(DUT)
Wi-Fi Configuration

(Peer STA)
Bandwidth

(MHz)
Throughput under different attenuation (Mbps)
Strong signalsMedium signalsWeak signals
DLULDLULDLUL
802.11n(Nss=2) 802.11n(Nss=2)20909070703535
802.11ac(Nss=2)802.11ac(Nss=2) 80500500200200100100

 

回転中の最大変化は、下表の要件を満たさなければなりません。

Wi-Fi Configuration

(DUT)
Wi-Fi Configuration

(Peer STA)
Bandwidth

(MHz)
Variation under different attenuation (%)
Strong signalsMedium signalsWeak signals
DLULDLULDLUL
802.11n(Nss=2)802.11n(Nss=2)2030%30%30%30%30%30%
802.11ac(Nss=2)802.11ac(Nss=2) 6040%40%40%40%40%40%

 

 

カテゴリー4:マルチユーザーサポート(Capacity)

4-1. マルチユーザー性能テスト(Multiple STAs Performance Test):必須項目

複数のユーザーが同時接続し、システムとのWi-Fiデバイス性能を測定することを目的とします。現実環境をシミュレーションするため、このテストの実施にはWi-Fiデバイスの各種距離の各区分信号が考慮されました。

ほとんどのAPは、開放空間で使用されるため、複数のデバイスが異なる距離で接続するのは、よく見られる使用状況です。この場合は接続の安定性及びパフォーマンスが相対的に重要となりなす。

テスト基準

テスト基準:

対等システムのスループットは、下表の要件を満たさなければなりません。

Wi-Fi Configuration

(DUT)
Wi-Fi Configuration

(Peer STA)
Bandwidth

(MHz)
Throughput_S (Mbps)Throughput_SM (Mbps)Throughput_SML (Mbps)
DLULDLULDLUL
11n(Nss=2)11n(Nss=2)20707060605050
11ac(Nss=2) 11ac(Nss=2)500500500400400300300
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テスト例:

 

結果から複数システムの接続時にAP 2のパフォーマンスが明らかに低下したことがわかります。

 

4-2. 多重安定性テスト(Multiple Association/Disassociation Stability Test):必須項目

接続状態を頻繁に変化させる動的環境において16個のWi-Fiデバイスの安定性を測定することを目的とします。普通の開放空間で大量のデバイスがAPと接続/切断するため、この時のAPの安定性及びパフォーマンスは重要な指標となります。

 

テスト基準

テスト基準:

関連解除または関連付けは、いずれもその他の対等システムの性能に影響を及ぼしてはいけません。(1)エラーのないUDPトラフィックレートは、各システム設定レートの99%です。

 

4-3:DL MU-MIMO性能テスト(Downlink MU-MIMO Performance Test):必須項目

MU-MIMOの下り通信時、Wi-Fiデバイスのパフォーマンスを検証することを目的とします。このテストは、802.11ac対応のWi-Fiデバイスのみに適用されます。MU-MIMOの下り通信機能は、802.11ac Wave 2とも呼ばれます。

 

テスト基準

テスト規格に適合するように、以下のパス/フェイル基準に従って記録しなければなりません。

  1. STA1_throughput_2、STA2_throughput_2とSTA3_throughput_2の合計は、少なくともSTA1_throughput_1、STA2_throughput_1とSTA3_throughput_1の和の45%であること。
  2. STA1_throughput_2、STA2_throughput_2とSTA3_throughput_2の合計は、STA1_throughput_3、STA2_throughput_3とSTA3_throughput_3の合計を上回ること。このテスト指標は、DL MU-MIMO使用禁止対応のテスト対象物のみに適用されます。

 

今回のシリーズ文章では、カテゴリー3の「カバー範囲」及びカテゴリー4の「マルチユーザーサポート」を紹介し、テスト例を通じて、各テスト項目のパス/フェイルの判定基準を説明しました。この2つのカテゴリー内の5つのテスト項目がいずれもTR-398規格のテスト必須項目であることを留意してください。

次回がシリーズ文章の最終回ですが、TR-398規格内の最後の2つの必須テストカテゴリーである「安定性」及び「干渉回避」を紹介します。引き続きアリオンの技術文章にご期待ください!