IHSマークイットの調査によると、IoTデバイスの将来的な総数は、2017年の270億台から年間平均12%増加し続け、2030年には1250億台に達すると予想されています。無数のデバイスがインターネットに接続されることで、一部の無線チャンネルにアクセスが集中して接続上の問題が起きてしまい、結果的にユーザーエクスペリエンスの悪化へと繋がることが懸念されています。
従来の1対1形式の通信と異なり、IoTデバイスは1対Many形式の通信形態を取ります。IoTデバイスの性能は3つの要素に左右されます。製品そのものの性能、ネットワーク接続性、そしてユーザー環境/行動です。このため、製品を市場で販売する前に、これらの検証を行う新たな必要に迫られています。この記事では、現実社会にある要因を認識することで、ワイヤレス接続問題を解決するために使用されるIoTデバイス検証手法「ヒートマップ分析」の利用方法について説明します。
ユーザーがよく遭遇する一般的な接続問題を次で解説します。
1. 不安定な接続性
デバイスとデバイス(あるいはデバイスとAP)の距離と家庭内などの装飾物は、信号品質に影響を与える大きな要因です。例えば、リビングではWi-Fiアンテナがすべて表示されている状態なのに、ベッドルームでは1本しか立っていない、といったことがあります。無線信号は建築物のドアや壁面、その他構造物によって容易に状態が変化します。
2. 通信遅延問題
もう一つは、通信の待ち時間に関する通信遅延問題です。スマートフォンのアンテナ表示が全て立っている場合でも、ネットワークの寸断などが見られることがあります。通信遅延は、同じ空間で共存する信号(Wi-FiやZigbee、Threadなど)によって発生します。
3. ローミングキャパシティ不足
無線APの対応範囲には限りがあるので、接続デバイスは移動時の接続を維持するためにAPをローミングする必要があります。しかし、デバイスが様々なAPの中でスイッチングしていくことで、通信遅延や寸断などが発生することがあります。例えば、ロボット掃除機がキッチンの清掃からダイニングルームの清掃へと移行中(AP AからAP Bへとローミング中)にコマンドの送受信ができない、といったことが時折見られます。このような場合、掃除機はネットワークに再接続する必要があるため、ユーザー側の手間がかかってしまいます。
これらの問題はあくまで氷山の一角にしか過ぎません。多くのスマートデバイス(カメラ、証明、煙探知機、コンセントなど)は将来的にはスマートホームと接続されることになることが予想されているので、様々な接続問題が発生することになるでしょう。接続問題はユーザー満足度を低下させるだけにとどまらず、最悪の場合、様々な過失(財産の損失、火災、死亡事故など)を引き起こす恐れがあります。企業としての信頼性やブランドイメージの失墜に繋がりかねません。
画像:安定したネットワーク接続がスマートホーム製品の鍵となる
アリオンは10年以上に渡る無線検証の豊富な経験を持っています。また、Wi-Fi、Bluetooth、LoRa、OCFの指定認証機関としても運営しています。アリオンが新たにサービスを開始したヒートマップ分析は、現実に起こりうる問題要因の特定から解決に至るまでをお手伝いする、無線製品のための検証プログラムです。
なぜヒートマップ分析が重要なのか?
1. 目に見えない電波を可視化
ヒートマップ分析は、目に見えない電波(RF)を可視化でき、異なる信号の関係性を確認することができます。様々な無線信号を即座に視認できるよう、従来の対数線型モデルに代わってヒートマップ分析が開発されました。受信信号強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)を検出することでスマートデバイスの接続性(例:Wi-Fi、Bluetooth、ZigBeeなど)とパフォーマンスを検証します。
画像:赤いエリアはRSSIレートが強いことを示す
上図の示すとおり、RSSIレートが強いことを示す赤色のエリアでは、デバイスは強いWi-Fi信号を受信できます。黄色のエリアは信頼性の高い信号レベルであり、緑色のエリアは信号強度が許容範囲内であることを示しています。一方、青色のエリアは信頼性の低い信号レベルであることを示しています。信号強度の異なる様々なエリア(赤、黃、緑、青など)でスマートデバイスの信号試験を行うことで、ヒートマップ結果に応じてデバイスのパフォーマンスにバラつきがあることが分かります。ヒートマップ分析は、自宅やオフィスなど様々シナリオでの接続性を検証するのに役立ちます。
このエリアではコネクティビティについて測定するために主な3つの指標を計測しています。
- レイテンシ(通信量)
- スループット(処理量)
- パケットロス(データ消失量)
ヒートマップ分析結果と3つの指標の測定結果を活用することで、結果の比較によってコネクティビティを分析し、接続問題を引き起こしている根本原因を発見できます。
2. 実際のシナリオをシミュレートすることで根本原因を解明
無線信号に影響を及ぼし、IoTデバイスの性能を低下させる可能性のある要因はいくつもあります。例えば、APの位置、周囲の状況、ネットワークインフラ、さらには家具の材質でさえ、影響を及ぼします。アリオンは様々な環境要因を考慮し、実際の状況をシミュレートすることで根本原因の特定を支援しています。
下図の左側はクリアな状態の信号エコシステムで、右側は信号干渉などを含む複雑な信号エコシステムを示しています。これらの信号(例えばWi-Fi、ZigBee、Treadは2.4GHzスペクトルを同時に使用している)が混在している時、同一チャンネルの干渉が発生することで、IoTデバイスに問題を起こしたり性能が低下したりする恐れがあります。ヒートマップ分析によるシグナル強度と分布の特定によって、家庭内の最適な無線環境の構築に役立つことができます。
画像:(左)クリアな状態の信号エコシステム、(右)複数の信号が混在した信号エコシステム
しかし、全ての要因を考慮しながら試験環境を構築するには、コスト面や技術面で高い参入障壁があります。そこで、アリオンはお客様がより手軽に検証を行えるよう、IoTイノベーションセンターを構築しました。ここでは市場に製品を出す前に問題を発見し、解決するためのソリューション(ヒートマップ、様々なシナリオ試験など)を実施できます。
・ ヘビーユーザーによる見解:実際の状況から見えた数々の接続問題
画像:2台のAPを使っても、家全体のうち1/3の場所は通信環境が悪いか全く通信できない状況だった
シチュエーション 1:突然停止するカメラ
一般的なスマートホームが監視システム/デバイスを持つのと同様、このヘビーユーザーはスマートカメラを玄関の前に設置し、常時来客を監視できるようにしました。セットアップ作業自体は簡単で、彼は何の苦労もなくスマートカメラを稼働させ、ウェブブラウザ上から映像をストリーミングすることができました。しかし、およそ10分後、カメラが突然停止しました。彼は3台のリファレンス機器でネットワーク状況を確認しましたが、レイテンシとスループットのパフォーマンスは問題ないようでした。それでは物理的な距離の問題によって引き起こされたのか?というとそうでもなく、カメラとAPとの距離は5mしか離れていません。APから目の届く範囲内にあっても、スマートカメラの接続性は不安定だったのです。
このユーザーがカメラ位置を正しい軌道上まで少し移動させると、カメラは正常に機能しました。機器間の相互接続性(デバイス対デバイス、デバイス対AP)や室内装飾品の材質(金属、コンクリートなど)は、接続問題を引き起こす要因となり得ます。この場合の根本的な原因は風水用の装飾で使われている材質にありました。コンクリートや金属などの材質は、Wi-Fi信号にとっては大敵です。このように、世界各地の文化的要素によって家庭内の装飾嗜好が全く異なることから、様々な室内装飾品の材質を確認する方法が必要です。今回紹介したこのユーザーのような状況は、他のユーザーでも見られました。
画像:カメラ-AP間が5m程度しか離れていないにもかかわらず、スマートカメラが突然停止した
シチュエーション 2:スマートデバイスを材質の異なる家具の上に置いた時に通信遅延が発生
あるヘビーユーザーは、種類の異なるスマートデバイス(スマートアシスタント、プラグなど)をテーブルの上に設置しています。使用方法や手順が同じであったにもかかわらず、設置されるテーブルの材質が異なる場合、挙動が異なることが分かりました。例えば、スマートスピーカーは金属製のテーブル上では数ミリ秒の遅延が見られましたが、木製のテーブル上だとユーザーの持つスマートフォンから音楽が遅延なく再生されました。
この状況についてヒートマップ検証分析を行った結果、わたしたちは根本的な原因が家具の材質にあるのでは、という結論に至りました。あるデバイスの場合は、金属製のテーブル上に設置するよりも木製のテーブル上に設置したほうが優れた信号品質となる傾向にありました。金属のような材質は、信号そのものに影響を与え、信号遅延を引き起こす場合があります。これとは別に、短距離干渉もまた要因となりえます。例えば、APとセットトップボックスの間で起こる干渉は、特定の場所に設置した時に起こります。
画像:同じデバイスであっても設置される家具の材質が異なる場合、通信遅延が発生することがある
シチュエーション 3:特定の場所で信号を受信できない
このヘビーユーザーは、ダイニングルームの信号が不安定であると主張しました。しかし、我々が確認した処、デバイスの機能とネットワーク接続には何の問題点も見られませんでした。彼は、ダイニングテーブルの椅子に座ったときに何の信号も受信できなかったといいます。椅子に座るまでは普通に信号を受信できていたようでした。
このような問題は、ヒートマップ検出抜きに原因の特定は困難です。一般的に、家具や柱、鏡、特定の物質、あるいは金属などが原因で引き起こされる干渉問題は、無線信号のカバレッジ低下を引き起こします。このケースの場合だと、ヒートマップ分析の結果、ダイイングルームの中に信号の”ブラックホール”があることが分かりました。下図の左にある白い空間がそれに当たります。我々はヒートマップグラフを参照することで、実際の環境にあるこうした”ブラックホール”の位置を特定することができました。今回の干渉問題の原因は、どうやら近くに置かれたマッサージチェアにあったようです。
画像:家具の材質がスマートデバイスの接続性に影響を及ぼす
これまでの話を総括すると、安定した電力供給が現在の生活では欠かすことができないのと同様、将来的には安定的なネットワーク環境の構築が不可欠となるでしょう。様々なスマートデバイスがスマートホーム内のネットワークに接続されるようになると、無線接続性の問題が数多く表面化してくることが予想されます。開発ベンダーは、市場に製品を投入する前の段階で、接続性の問題について解決する必要に迫られています。
・ RF検証を行うことで製品の無線パフォーマンスは改善する
ノイズ干渉は多くの場合、製品の無線性能に影響を及ぼします。一般的に、プリント基板レイアウト、コネクタ、CPU、そしてGPUなどでノイズが発生します。この原因を特定するために、周波数領域のノイズ分布を観測します。
ユーザーシナリオによって無線パフォーマンスが低下する可能性も否定できません。例えば、Wi-Fiの減衰問題はUSB3.0ドングルをPCに接続することで起こり得る問題です。こうした事例もあって、無線の減衰問題を発見するために、様々な試験シナリオを設計しているのです。
同じ周波数帯域を使う無線技術を同時に使うと、共存性の問題が発生する可能性があります。2.4GHz帯域はWi-FiやBluetooth, Zigbeeといった無線技術で溢れかえっています。これらの通信規格を使ったデバイスをいくつも起動させていると、突然の停止やネットワーク遅延などが見られることがあります。
・ 包括的なIoT検証を行いユーザーエクスペリエンスの最適化を実現
アリオンのIoT検証サービス、ならびにヒートマップ検証について、お問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。