AppleがWireless Power Consortium(WPC)の新メンバーとして加入したことで、次のApple製品にはワイヤレス充電機能が加わると予想されています。Apple社は市場のリーダー的存在として産業を牽引してきていることから、未来の技術として考えられていたワイヤレス充電技術の活況な様子と、技術開発の機運が高まりつつ有ることを示しているように見えます。

IHS社のレポートによると、ワイヤレス充電パッド(Transmitter: Tx)とレシーバ(Receiver: Rx)の合計出荷台数は、2017年にはグローバルで6億台を超えると予測されており、2025年にはその4倍強となる28億台に上ると考えられています。携帯電話やスマートウォッチといったワイヤレス充電のレシーバが搭載されているデバイスの出荷台数がワイヤレス充電市場を牽引する主力であり、将来的には充電パッドの出荷台数の更なる増加をもたらすと考えられています(チャート1)。

 

チャート1 – 世界のワイヤレス充電製品の出荷台数2013年~2025年(2017年~2025年は予測)
source from IHS

 

数多くのワイヤレス充電製品が市場に登場する中で、後方互換性や相互接続性に関する技術問題もまた数多く立ち上がってきており、ユーザー体験や充電機能に直接影響を及ぼしています。ワイヤレス充電検証のためのトータルソリューションとしては互換性試験の実施に加え、規格認証とワイヤレス充電性能、そしてワイヤレス充電の効率性に関する試験を実施するのが望ましいでしょう。

規格認証の目的は、標準化団体によって求められる仕様を製品が満たしているかどうか確認することです。最低限の試験基準をメーカー側に課しています。一方でワイヤレス充電性能・効率性検証とは、製品が一定の性能レベルに達しているか、そして多数の製品スペック下で求められる性能が発揮できるかどうかを確認します。この試験では充電性能と充電効率に加え、セキュリティ機能についても評価します。製品性能を向上させることで、製品の差別化を進め、市場競争力を強化することができます。

アリオンは市場を調査した結果、世界的に著名なオンラインショップ上で販売されている製品であっても、認証取得された製品は数少なく、多くの製品は認証を取得していないことがわかりました。例えばUSBやHDMIのような確立された技術開発と比べると、ワイヤレス充電製品の規格認証はより普及させる必要があります。

 

ワイヤレス充電試験 重点項目

ワイヤレス充電の試験シナリオは、一般ユーザーの利用ケースに応じた3つの環境によって分類することができます。公共エリア、自動車、ホーム/オフィスという3つの利用シーンによって人間の自然な活動は変わってくるため、ユーザー行動は試験内容によって異なるものとなります。次に、この3つの環境によるワイヤレス充電試験の主な確認ポイントをそれぞれ見てみましょう。

図1 – 3つの環境に分類されるワイヤレス充電試験の重要項目

 1. 公共エリア 

喫茶店や空港といった誰でも入ることができる場所がこれに当たります。公共のエリアに備え付けられた充電サービスの電子パッドで一般ユーザーがモバイル製品を充電しようとした時、順調に充電できるかどうかというのは非常に重要です。そのため、接続性検証は最優先で確認すべき項目です。

 

 2. 自動車 

自動車の内部には温度上昇と空気の循環によるリスクがあるため、空調管理については特に重要です。加えて、ドライバーは運転席と助手席の間などに硬貨を落としたりすることもありますが、これが仮に充電パッドの上に落ちてしまった場合、充電が硬貨に対して行われてしまう恐れがあるため大変危険です。自動車内での利用シーンの検証では、FOD(Foreign Object Detection)に関する検証が一般的な充電検証と同じくらい重要です。

 

 3. ホーム/オフィス 

家庭内とオフィス内では、どちらもほとんど同じ評価基準を適応できます。この2つの環境下では、特に充電効率が重視される傾向にあることが分かりました。出張や会議への出席などでモバイル製品を持ち出す機会の多いオフィスワーカーにとって、ワイヤレスによる急速充電機能の需要は高く、このニーズを満たせるかどうかは各メーカーにとって重要な課題となるでしょう。そのため、充電性能と効率に関する検証を行うことにより、ワイヤレスでの急速充電技術の向上に繋げられると考えます。UX試験は、ユーザーが家庭やオフィスで暮らす日常生活を多角的にシミュレートする上でたいへん役に立つ試験であり、試験結果の分析によって、潜在的なリスクの低減に繋げられることでしょう。

*Foreign Object Detection (FOD) とは、異物との接触による干渉が起きたときにプラットフォームからの電力供給を自動的に遮断できるメカニズムのことです。

 

互換性問題は、これら3つのいずれの環境下においても重要な問題です。アリオンは、一般ユーザーとメーカー側の双方が出来る限り互換性問題を避けられるよう、それぞれの製品に潜むワイヤレス充電機能の性能とリスクについて試験を行い、結果を次の通りまとめました。

 

ワイヤレス充電の互換性試験 結果と分析

現在、ワイヤレス充電市場は2つの標準化団体、WPCとAirFuelが標準規格の市場を事実上独占している状態にあります。前者は磁気誘導方式を推進し、後者は磁気誘導方式と磁気共鳴方式を並行して推進しています。アリオンはそれぞれのワイヤレス規格の互換性を分析することで試験手法と基準を設計し、少数のサンプルで交差検証を行いました。この検証では、レシーバとして新品の携帯端末10台と、充電パッド8台を準備しました。この中には、認証取得されていない製品もいくつか含まれています。なお、AirFuelの規格に準拠した製品は市場ではまだほとんど発売されていないため、今回の試験ではWPCのQi仕様に準拠した認証製品を選択しています。

Qiの仕様によると、現在最新のバージョンは1.2となっており、5W向けのBPP(Baseline Power Profile)と、15W向けのEPP(Extended Power Profile)が定義されています。最初期のバージョンはV1.0であり、続くV1.1ではFODが導入されました。WPCは現在、古いバージョンであるV1.0とV1.1の申請を受け付けていませんが、市場にはV1.0とV1.1に対応した製品が多数見られます。

更に、急速充電の需要が増加したことによって、WPCやAirFuel以外の規格に準拠した製品が市場では見られるようになりました。例えば、Samsung Fast Charge Wireless Chargingなどです。これらの互換性問題は、製造側のみならず一般消費者にとっても関心度の高い問題です。

図2 – Qi仕様の変遷

 

試験結果

表1の横軸 1 ~ 10 がRxサンプル(携帯端末)、縦軸 1 ~ 8 がTxサンプル(充電パッド)です。セルの色は認証のバージョンを示しており、赤く塗りつぶされたものは未認証の製品です。試験結果はそれぞれの製品が交差した欄に記入しており、結果に応じて5段階の点数(0, 0.5, 0.75, 0.9, 1、脚注参照)を付けています。充電パッドと携帯端末それぞれに付けられた性能値は、縦軸・横軸の合計の値です。例えば、10点の最高性能を持つと評価されたU社の充電パッドは、横軸の試験結果の点数の合計値となっています。S社の充電パッドは2番目に高い9.9点となりました。このように、合計値の高いスコアの製品は、低いスコアの製品と比べて高い性能を持つことを示します。

試験の最中、様々なことを観察する必要がありました。例えば、充電が中断なく継続的に実施されているかどうか、といったことです。全てのサンプルが観察されたことを確認するために、ワイヤレス充電プロセスの開始から終了までモニターして結果を取得しました。

表1 – ワイヤレス充電互換性 試験結果(Tx=充電パッド、Rx=携帯端末)

**数値の意味

1: TxとRxが問題なく動作する。
0.9: 充電開始まで約3秒待った後、Rx側は充電する。
0.75: 充電開始の待ち時間が3秒以上発生する。
0.5: Tx-Rxペアで転送時にエラーが発生する。一般利用可能だが、深刻な問題に発展する可能性がある。
0: ワイヤレス充電が全く機能しなかった。

 

1. 互換性問題は、異なるバージョンで認証されたTx-Rx間の組み合わせで発生する

N社充電パッド(ランク6)とM社充電パッド(ランク8)の両方がQiの初期バージョンであるV1.0の認証を取得済みですが、Qi V1.1とV1.2で認証取得された携帯端末との間で明らかな互換性問題が発生しました。また、認証済みのM社充電パッドと2種類のS社携帯端末との間でも同様に、充電が機能することがありませんでした。携帯端末側から見てみると、Qi V1.1認証取得済みのM社の端末(ランク8とランク10)はほとんどの充電パッドとの間で互換性問題が発生しました。

以上の結果から見ると、異なるバージョンで認証取得されたQiは、双方が認証済みであっても互換性問題が発生することがわかります。初期のバージョンであるQi V1.0仕様は最低限の要求のみが設定されているなど仕様が甘く、Qi認証済みの製品同士であってもバージョンが異なれば互換性問題が発生します。現状では2つの解決方法を提案できます。一つは認証スペックを最新バージョンにアップデートすること。もう一つは、同じ製品に対して多角的な検証を行うことです。ユーザー側には、最新の認証バージョンを持つワイヤレス充電製品を可能な限り選択することを推奨します。

 

2. 製品に使われる部品が異なる場合、互換性性能に影響を及ぼす

未認証の充電パッドは矛盾した性能を発揮していることもありました。携帯端末との接続確認を行った結果合計9点を獲得しランク4となったM社の充電パッド(未認証製品)と、合計7.5点を獲得しランク7となった未認証のA社の充電パッドの2つを分解したところ、両者の製品は全く同じチップが組み込まれていることが判明しました。しかしながら、A社の充電パッドではM社携帯端末(ランク10)との間では全く動作しませんでした。これにより、たとえ同一のチップが使われていたとしても、コイルや回路設計といった要素が異なることで性能に影響を及ぼすことがわかりました。

 

3. より高度な試験仕様の策定が、同メーカー間のTx-Rx互換性問題を防ぐ

予想外だったのは、Qi V1.1認証取得済みだったI社製品のTx-Rxペアでも問題が発生したことです。我々はこの問題が、サプライヤが異なる事による問題ではないかと仮説を立てました。一般的に同じメーカーの製品ペアであれば、互換性問題を回避できると考えるのが普通です。この試験結果を受け、アリオンはより高度な試験仕様を定めるべきだと考えます。これに加えて、出荷前のサプライ・チェイン管理を行うことで、製品品質の安定に繋げることができるでしょう。

 

結論

アップルが主導する製品の中のワイヤレス充電機能の導入とユーザー需要の増加によって、15Wに対応した急速充電パッドが市場に出回ることでしょう。そうなると高い電流値による過充電がより一般的に起こりやすくなるため、急速充電問題が増加することも予想できます。現時点では、ワイヤレス充電市場の標準化について発展途上段階にあるため、製品検証(互換性試験、認証試験、充電性能、充電効率試験など)のトータルソリューションの実施が市場問題を低減させるためには高い効果を発揮することでしょう。

様々なメーカーが販売する製品の機能比較と製品性能を分析することで、メーカー側は製品が市場の中でどのような位置づけとなっているかを正確に把握することができます。そして、競合分析に基づいたマーケティング戦略を製品出荷より前の段階で行うことによって、製品の競争力を更に強化できることでしょう。

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