「2010年、秋の夕暮れ時、我々一行はイスタンブールのブルーモスクに到着した。空が徐々に暗くなってゆく頃合い、濃い青の夜空の下で、街路灯に照らされた街並みは非常に美しいものだった。鳥の群れが建築物の中央にあるドームの上空で飛び回るその瞬間、私と友人はカメラを取り出し、その瞬間の美しさを写真に残そうとした。しかし、カメラの機能を調整したり、違う角度から撮影したりしても、捉えた画像は自然さに欠け、肉眼に映った画像をリアルに残すことができなかった。」
上述は、アリオンのシニアテクニカルマネージャーであるリックの旅行感想です。読者の皆様も同じような経験をしたことがあると思います。眼前の光景で感じた感動を写真に残すためには、撮影者本人の高い技術力はもちろん、カメラの性能、外部環境などの条件が整うことが要求されます。このほか、テレビに映る映像と現場で見る場面ではまた大きく異なります。テレビで輝度が低い映像を映し出すときは黒一面しか見えず、逆に太陽の光線が強い場合では白一面しか見えないことがあります。一体何が原因で、視覚効果の差異が発生するのでしょうか。
ハイダイナミックレンジ(High Dynamic Range:HDR)
撮影機材やディスプレイは時の流れによって技術的に洗練され、新しく変わっていきます。しかし、技術開発の制限はまだ存在しており、画面上で表示可能な動的コントラストは肉眼で捉えられる映像と比べると限られています。肉眼では光の位置、暗い場所を明確に判別でき、そして最も明るいところと最も暗い場所を対比して見ることができます。ダイナミックレンジとは、機器が識別可能な明暗比率の幅広さを表す数値のことです。太陽の光があたる場所でも当たらない場所でも目に映る世界をよりリアルに、忠実に再現するディプレイを作り出すため、メーカー各社は映像のダイナミックレンジを広げることを目標としています。そして、ハイダイナミックレンジ技術の技術基準を定めることで、規格の品質を守ろうとしています。
二枚の画像を用いてHRD技術を利用する前と利用後の差を説明します。一枚目の図は、標準的なダイナミックレンジ(図3:SDR)です。一番左側の画像が人の目に映る街の夜景で、真っ黒な背景色と明るく輝くヘッドライトが強烈に対比しています。
シャッターを押したその瞬間から、機器が捉えるダイナミックレンジは人の目に映るダイナミックレンジより縮小し始めます。そしてポストプロダクション、マスタリング等の工程を経ることでダイナミックレンジは更に縮減し、最後に画面表示されるのが一番右側の画像です。その画像はまるで漂白されたように白飛びしてしまい、背景も暗く、ヘッドライトの光線も弱くなっています。
二枚目の図は、ハイダイナミックレンジ技術を利用した図です(図4:HDR)。一番左の画像は図3と同様に肉眼が捉えた街の夜景です。シャッターを押した瞬間から、ポストプロダクション、そしてマスタリングを経て画像を画面表示した後でも、ダイナミック画レンジは同様に保つことができます。夜景の背景色は暗く、バスのヘッドライトも明かる、明暗の対比が明確であり、オリジナル画像に非常に近いものです。
HDR及び関連技術認証
最近市場で話題になっている4K対応のUHD TVは、上述のような明暗のはっきりした画面を表示することができるでしょうか?「必ずしもできるとわけではない」が答えです。ハイダイナミックレンジの画像を表示するには、放映する映像側もHRD技術を利用している必要があり、超高解像度仕様を搭載した再生機器を使用しなければなりません。そして、HRD技術を対応したディスプレイを使用することで、初めてHDRの視覚効果を表現することができます。オーディオ/ビジュアルに関連するものは全てHRD技術を採用していなければならず、いずれかが欠けてしまうと成り立ちません。
現在、HRD技術のエコシステムは徐々に成り立ちつつあり、上流、中流、下流と各自の技術が商標登録されています。上流部門であるマスタリング会社はHRDを搭載したDolby Vision™、再生機器メーカーは超高解像度仕様を搭載したUltra HD ブルーレイ、そしてディスプレイメーカーは超高解像度ディスプレイ標準Ultra HDプレミアムを主力商品とし、HDR技術の発展を促しています。次に、Dolby Vision™におけるHDRの概要を説明します。
Dolby Vision™(ドルビービジョン)
ドルビービジョン技術の輝度は、0.0001 nitsから10,000 nitsの間で設定されています(図5:ドルビービジョン技術の輝度範囲)。現状のHDRビデオの技術だと0.005~5,000 nits(Dolby Vision Mastering Display)であり、実際にHRDを応用して録画できるビデオもこの技術範囲に近いものです。これは、従来のHRD録画の明暗対比度よりも約400倍高くなります(標準テレビ信号は0.05~100nits)。この数字は映画のプロダクション会社にとって非常に有利なものとなります。なぜなら一般ユーザーは画質の綺麗な映画を見るためには、合法で映画を購入する必要があるからです。
Ultra HD ブルーレイ
ブルーレイディスクアソシエーション(BDA:Blu-ray Disc Association)が主導するブルーレイディスクとプレイヤーにもHDR技術が組み込まれています。このHDR技術は輝度を重視しており、輝度の範囲は1,000~10,000nitsと、ドルビービジョンのダイナミックレンジと少し異なります。
ULTRA HD プレミアム
ディプレイ技術側のHDRの発展も負けていません。2015年に成立したUHDアライアンス(UHD Alliance)は新時代の高解像度ディプレイの新たな基準を定め、認証を行っています。認証を取得したディプレイには「ULTRA HD PREMIUM」の認証マークが付与されます。
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UHDアライアンスはディスプレイメーカー以外に、NetflixやNetflix, The Walt Disney Studios、Twentieth Century Fox, Universal Pictures, Warner Bros. Entertainmentといったメディアのコンテンツ配信ベンダー、更にはインテルといったICベンダーを含めて対象としています。
図8:ULTRA HD Alliance 会員企業(出典:http://www.uhdalliance.org)
ホームエンタテインメント業界のリーディングカンパニーが集まったUHDアライアンスは、ユーザーが4Kテレビを視聴する時に最高の体験を得られるよう、高解像度ディプレイの解析度、色域、ビットレート、輝度、明るさ、暗さなどについて一定の基準を定めました。ULTRA HD プレミアムディスプレイの主な認証規格は以下のとおりです。
◆ Resolution – 3840 x 2160
◆ Color depth – 10 bit
◆ Wide Color Gamut (WCG) – 90% up of DCI-P3
◆ High Dynamic Range (HDR):
技術オプション1: 輝度 1,000 nits以上/ DIMレベル0.05 nits以下
輝度が優れたLCD型ディスプレイに適用
技術オプション2: 輝度階調540 nits以上/DIMレベル0.0005nits以下
DIMレベルが優れたOLED型ディスプレイに適用
ディスプレイ業界でアリオンがお手伝いできること
アリオンは2015年に認証を取得し、正式にUHDA認証ラボ(UHDA Authorized Test Center)となりました。4K/UHDに対応したディスプレイ製品に対して、ULTRA HDプレミアム認証、技術コンサルティング及びその他互換性試験等のサービスを提供しています。お客様に向けた品質訴求のポイントとしてUHD認証を取得することはもちろん、他社製品と接続時に問題ないかどうかを確認する互換性試験は、市場の問題発生回避のために極めて重要です。
2016年の上旬、ULTRA HD Blu-rayの標準型ディスクが発表されました。各メーカーは新たな仕様のプレイヤー機器を発表し、動画、映画や音楽などのオンラインコンテンツのサービスを提供する業者もULTRA HD+HDRの動画提供を開始しました。一部ではユーザーの登録も受付も開始しています。ディプレイの機種はFULL HD、ULTRA HD、そして最新のULTRA PREMIUMまで広がりましたが、それぞれ異なる時期に製作された動画、プレイヤー、ディスプレイでは、利用時に想定外の問題が発生したり、互換性問題が発生したりする可能性が大きくなります。
アリオンのシニアテクニカルマネージャーであるリックは、多数の互換性問題を大きく二種類に分けました。一つ目が新機種と他の製品との互換性です。例えば、HDMI 2.0(b)、HDCP 2.2、HDRを搭載したテレビは下位規格のHDMI1.4、HDCP1.4のブルーレイ再生機器と問題なく使用することができるのか、という問題。二つ目はDolby Vision、ULTRA HD Blu-ray、Ultra HD Premiumという新たな3規格の相互接続性の問題です(図9)。アリオンの互換性試験は、ユーザーの実利用環境に近づけてシミュレートした状況を再現し試験を行うことで、他のメーカーのハードウェア及びソフトウェアとの互換性を確認し、使用者のニーズに一番適した製品開発に協力します。
アリオンは、冒頭に記載したようにカメラで記録できなかった感動を、HDRの進化によって鮮明に記録できるようになるよう願っています。試験内容の詳細、UHDA認証などにつきましては、お気軽にお問い合わせください。