前回の記事では、USB規格とType-C規格の基礎知識について紹介しました。本編では、それに続きUSB Power Delivery規格の基本について紹介します。

USB Power Delivery規格の基本

 Power Negotiation 

USB PD 60W充電器(PD Source)とLaptop(PD Sink)を接続したときを例に説明します。

USB PD 60W充電器(PD Source)とLaptop(PD Sink)を接続したときを例に説明します。

 

  • PD SourceはSource Capabilities Messageを送信

PD SourceはSource Capabilities Messageを送信

 

Source Capabilities Messageは1つまたは複数のPower Data Object (PDO)が含まれています。PDOにはPD Sourceがサポートしている電圧・電流の組み合わせ等の情報が含まれています。この例では60WのSource Power Ruleに従いPDO #1 (5V/3A), PDO #2 (9V/3A), PDO #3 (15V/3A), PDO #4 (20V/3A)をサポートしていることをPD Sinkに伝えています。

  • PD SinkはRequest Messageを送信

PD SinkはRequest Messageを送信

 

PD Sourceから示された4つのPDOの中から1つを選択して、利用する電圧・電流を要求します。この例ではPD SinkはObject Position #4 (PDO #4: 20V, 3A)を要求しました。

  • PD SourceはAccept Messageを送信

PD SourceはAccept Messageを送信

 

PD Sinkの要求をAcceptしたことを伝えました。

  • PD SourceはPS_RDY Messageを送信

PD SourceはPS_RDY Messageを送信

 

PD SourceはVBUS電圧を5Vから20Vに上げて、PD Sinkが要求した20Vが利用可能となったことを通知するためにPS_RDY Messageを送信します。

  • PD SinkがPS_RDY Messageを受信するとPower Negotiation完了です。PD SinkはNew Power Level (20V)の利用を開始することができます。

 

 Source Power Rule (USB PD Revision 3.1) 

USB PD規格は充電器が表示するWatt数によって出力しなければならない電圧・電流が決まるように規定されています。例えば60W充電器は5V/3A, 9V/3A, 15V/3A, 20V/3Aが必須の出力電圧・電流の組み合わせです。30W充電器は5V/3A, 9V/3A, 15V/2Aが必須の組み合わせです。Source Power Ruleの規定はユーザーがWatt数を見ただけで出力される電圧・電流を容易に認識できるようにすることを目的としています。下の表は出力電力と必須の出力電圧・電流の組み合わせの関係を示します。

表:サポート必須の出力電圧・電流の組み合わせ (USB PD Revision 3.1)
表:サポート必須の出力電圧・電流の組み合わせ (USB PD Revision 3.1)

 

USB PD充電器はSource Power Ruleで必須とされていない電圧はOptional Voltagesとしてサポートすることが可能です。USB PD Revision 3.1はOptional Voltagesを20V以下と規定しています。例えばLaptop用のUSB PD Revision 3.1準拠の45W充電器の場合、Source Power Ruleで必須の5V/3A, 9V/3A, 15V/3A及びOptional Voltage 20Vを加えた20V/2.25Aの組み合わせをサポートしているものが多く見られます。

Programmable Power Supply (PPS)とは

 PPSの概要 (USB PD Revision 3.1 Version 1.8以降) 

PPSとはPD Sinkの要求に応じてPD Sourceの出力電圧を20 mV刻み、Current Limitを50 mA刻みで可変とすることができるオプション機能です。

27W PPS対応充電器(PPS Source)を例に解説します。

 

  • 27W PPS SourceはSource Capabilities Messageを送信

27W PPS SourceはSource Capabilities Messageを送信

 

PPS SourceはPPSをサポートしていることを示すAPDO (APDO #3)を提示しています。

APDO #3は供給可能な最大電流値(Max Cur: 3A)と動的に可変な電圧範囲(Min Volt: 5VからMax Volt: 11V)を示しています。

 

  • PD SinkはRequest Messageを送信

PD SinkはRequest Messageを送信

Object Position #3 (APDO #3)を指定してPPS modeに入ります。

 

  • PD SinkはPPS modeを維持するためにRequest Messageを周期的に送信

PD SinkはPPS modeを維持するためにRequest Messageを周期的に送信

PD SinkはPPS modeを維持するために、10秒間に少なくとも1回Request Messageを送信します。上の例ではTime StampによるとPD Sinkは3秒程度の間隔でRequest Messageを送信しています。Request MessageはPPS Sinkが必要としているVBUS電圧(Output Voltage: 20mV刻み)とCurrent Limit (Opr Current: 50mA刻み)を含んでいます。

 

  • PD SinkはVBUS電圧変更をリクエスト

 

PD SinkはPPS modeで動作している間、PD Sourceが供給可能な電圧範囲(5V~11V)を20mV刻みでリクエストすることができます。上の図ではVBUS電圧8.26V à 8.30V à 8.34V、Current Limit 1.40Aをリクエストしています。

 

Extended Power Range (EPR) とは

 EPRの概要(USB PD Revision 3.1以降) 

  • USB PD 3.1は最大240W(48V, 5A)のPower Range(EPR: Extended Power Range)の規定を追加しました。
  • EPRと区別するために従来のPower Range、最大100W(20V, 5A)をSPR: Standard Power Rangeと呼ぶことになりました。
  • EPR modeのサポートはOptionalです。
  • EPR Sourceは下の表のようにFixed VoltagesとEPR AVS (Adjustable Voltage Supply)をサポートする必要があります。EPR AVSとはPD Sinkの要求に応じてPD Sourceの出力電圧を100 mV刻みで調整することができる機能です。PPSと似ていますがEPR AVSはCurrent Limitを可変とする機能をサポートしていない点が異なります。
  • EPR modeに入るためには厳格なプロセスに従う必要があります。ケーブル、Source、SinkがすべてEPRに対応していることが確認できたときのみEPR modeに入ることができます。どれか一つでもEPRに対応していない場合はEPR modeに入ることができません。
EPR対応Charger: 出力電力(140,180,240W)と必須の出力電圧・電流の組み合わせ (PD Revision 3.1)
表:EPR対応Charger: 出力電力(140,180,240W)と必須の出力電圧・電流の組み合わせ (PD Revision 3.1)

 

SPR AVS (Standard Power Range Adjustable Voltage Supplied)とは

 

 SPR AVSの概要 (USB PD revision 3.2 Version 1.0) 

SPR AVSはUSB PD 3.2で新たに追加された機能です。SPR AVSとはEPR AVSと同様にPD Sinkの要求に応じてPD Sourceの出力電圧を100 mV刻みで調整することができる機能です。PPSと似ていますがSPR AVSはCurrent Limitを可変とする機能をサポートしていない点が異なります。USB PD 3.2準拠のPD Sourceは27Wを超えるとSPR AVSのサポートが必須です。

サポート必須の出力電圧・電流の組み合わせ (USB PD Revision 3.2 Version 1.0)
表:サポート必須の出力電圧・電流の組み合わせ (USB PD Revision 3.2 Version 1.0)

 

USB PD充電器はSource Power Ruleで必須とされていない電圧はOptional Voltagesとしてサポートすることが可能で、USB PD Revision 3.1はOptional Voltagesを20V以下と規定していると説明しました。USB PD Revision 3.2はOptional Voltagesを9V以下に変更となりました。USB PD Revision 3.2は27Wを超えるPD SourceはSPR AVS必須となったことから、9Vを超えて20V以下の任意の電圧を利用したい場合はSPR AVSを利用することになります。

 

認証取得可能なUSB Type-C Chargerの分類

認証取得可能なUSB Type-C Chargerの分類

 

 (Category 1 & 2) Assured Capacity USB Type-C Charger 

  • “Assured”とは表示された電力を確実に供給するという意味です。
  • 上図Category 1の例は表示された電力(45W)を確実に供給します。
  • 上図Category 2の例は各ポートに表示された電力(45W or 15W)を確実に供給します。

 

 (Category 3) Shared Capacity USB Type-C Charger 

  • “Shared”とは複数ポートが電力を共有するという意味です。
  • 上図の例は各ポート45Wまで供給可能、複数ポート使用の場合は3ポート合計60Wまで供給可能です。
  • 電力をSharedしている各ポートのPower Capabilityは同じでなければなりません。

 

 (Category 4) Assured and Shared Capacity USB Type-C Charger 

上図の例はAssuredとSharedが混在しているChargerです。

 

認証取得不可のUSB Charger

  • “Shared”している各ポートのPower Capabilityが異なるUSB Chargerは認証取得不可です。

“Shared”している各ポートのPower Capabilityが異なるUSB Chargerは認証取得不可です。

 

  • Type-CポートとAポートの電力を共有しているUSB Chargerは認証取得不可です。

Type-CポートとAポートの電力を共有しているUSB Chargerは認証取得不可です。

 

  • Type-Cポートを持ち、Divider ModeやQC 2.0/3.0などUSB規格で定義されていない充電手法をもつUSB Type-C ChargerはUSB認証取得不可です。

USB Type-C規格書4.8.2の以下の記載を参照してください。

USB Type-C規格書4.8.2

 

最後に

USB Type-C & Power Delivery規格は多くのオプション機能があり複雑な内容になっております。ここまでUSB Type-C & Power Delivery製品の設計において注意しなければならない点についてある程度理解できたのではないでしょうか。本稿で解説した規格の基本的な内容の理解に少しでもお役に立てれば幸いです。

アリオンは、USB-IF認定の長期にわたるパートナーとして、今後予想される規制の変更にスムーズに対応できるよう、最新情報の提供や必要となる試験サービス、技術導入の支援を引き続き行ってまいります。

 

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