Allion Labs/Greg Tsai
この記事ではアリオンが調べたヘッドホンの基本的な音響性能について、以下の項目で話していこうと思います。
1. Frequency Response (周波数特性、FR)
2. L/R Balance (左右バランス)
ヘッドホンは装着するたび毎回位置が若干ずれるため、測定を複数回重ねてしました。以下のデータは、ヘッドホンを異なる位置に配置するたびに同じ条件下で計5回統計的に測定したものです。
まずはFRで計5回測定したデータを見てみましょう。
*今回は0 dBFSのテスト信号をそれぞれ50%、100%の音量で再生しました。
以上2枚のグラフでは右チャンネルのスピーカーを5回配置し測定した結果、左チャンネルよりも収束し、低周波の振れ幅が比較的開いていることがわかります。そこからより詳しく調べるため50%音量の5回の測定をもう一度それぞれ行い、最大値から最小値を差し引く形で振れ幅の様子をよりよく観察することができました。その結果は以下の通りです。
以上の結果で低周波差が比較的に大きく現れてしまった原因はアリオンのテスト経験から見ると、耳を覆うカバーと頬の間に隙間ができてしまったり、ヘッドバンドの構造自体に幅ができてしまったりしたため低周波の音漏れを招いたと考えられます。今回のこのヘッドホンテストでわかったのは、まず左チャンネルの低周波音漏れ問題を解決し、その後L/R Balanceを見なければ意味がないということです。
生産をする上でまず理解しておきたいこととしては、各メーカーはヘッドホンを組み立てる前にスピーカー単体をテストする必要があることです。そうでなければその時左右どちらのチャンネルも本来であればペアリングしているはずだが、耳を覆う カバーのスポンジに設計不良があったり、組み立て時に品質上の問題が発生したりすると、左右の反応に差が出ることがあります。また、メーカーがコストのために左右のバランスをよく確認していない可能性もありえるでしょう。
また計5回測定したデータのうち、高周波差に関しても比較的大きくなっている問題については、以下の2つに関連していると考えられます。
1. 物理的な問題:計5回のうち、差が明らかに増加し始めた9 kHzを元に音速は343 m/sと仮定すると、波長は約3.8センチでした。そして14 kHzの波長は約2.45センチでした。これらの長さはヘッドホンの波長のサイズに近かったが、ヘッドホンの高周波の音波は均一に安定しているわけではありませんでした。これは装着時のわずかな違いによって高周波FR曲線の差が大きくなったものだと捉えることができます。
2. 製造時の問題:ヘッドホンまたはスピーカーの一般的な製造では、特にスピーカーの振動板はわずかな材料の違いだけで高周波振動時に違いが出る可能性があるため、高周波においてFR曲線を同じにすることは極めて難しいと言えるでしょう。
このことから5回の測定ではFR曲線に高周波で差が出ることは必然です。もしそうでなければそれらの誤差に対して許容幅を広げるか、コントロール範囲を2 kHz以下にすることが必要です。
FR曲線については少し理解いただけましたでしょうか。次にL/R Balanceについて見てみましょう。
上記のFRは5回ほど繰り返し重ねてテストしました。これに基づいて左右バランスも測ると左右の耳それぞれの5回のデータを平均し、2つの曲線をさらに減算することで左右のバランスの値を求めることができます。
左右の耳のバランスを確認する方法として7 kHz以上の周波数帯(上記の分析のように高周波に差がありやすい)を排除します。続きまして低周波音漏れをなくすことを考えると、その限界値は400 Hzに設定する必要があります。つまり、ヘッドホンスピーカーのL/R Balance範囲は400 Hz ~ 7 kHzの間に設定する必要があり、その差1 kHzだけを測れば良いということになります(しかし1 kHzでも大きな振れがある可能性があるので、それぞれ機種ごとに合わせて調整する必要があります)。
今回は、テストの中でも最も一般的な方法と、それら一部のデータの分析方法を記載しました。
本記事の内容やテストに関してご質問などございましたら、アリオンのお問い合わせフォームからお問い合わせください。
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