Allion Labs / Abel Hsu
新しいスタンバイモード「モダンスタンバイ」とは?
システムスタンバイはPCシステムの電力管理に必要不可欠な部分です。PCのパフォーマンスと限られたバッテリー容量の適切なバランスをとることが、重要且つ大きな課題となっています。例えば、PCシステムは使用されない時にスタンバイモードに入り、消費電力を効果的に制御して使用時間を長くします。また、スタンバイモードから通常の動作環境への復帰は、シャットダウンして再起動するよりもはるかに待機時間を短くします。
「モダンスタンバイ」とは、Windows 8で「コネクテッドスタンバイ」として最初に導入された従来のスタンバイモード(S3)から開発されました。OSが改訂アップグレードした Windows10の時代になると「モダンスタンバイ」へと発展しました。モダンスタンバイのコンセプトは、主にPCシステムがスタンバイモードから通常の操作ができる状態にすぐに戻るという、即時復帰のユーザーエクスペリエンスを提供することです。
この概念は、私達の生活の中にあるスマートフォンの操作方法によく似ています。画面のロックを解除した直後に使用できます。画面がオフになっても、バックグラウンドでインターネットへの接続が維持され、SMSの受信や通信ソフトウェアのメッセージをリアルタイムで送受信できます。
モダンスタンバイは、バックグラウンドでネットワーク接続を維持し、且つ新しい省電力テクノロジーで制御し、ネットワークに接続されている範囲で、ソフトウェア操作を維持します。ハードウェアとソフトウェアにおいては、ACPI低電力アイドルを介して、パワーエンジンパフォーマンス(PEP)やD3デバイスの電力ステータス等をサポートします。モダンスタンバイは回転式ストレージメディア(HDD)も、ハイブリッドのストレージメディア(SSD + HDD)のシステムにも適用できます。
従来のS3と比較し、モダンスタンバイモードの最大の違いは、ネットワーク接続がバックグラウンドでも維持されることです。システムがモダンスタンバイモードに入ると、システムは一連の手順で確認し、関連する動作を最適化することで、システム以外の重要な機能(周辺機器のI/Oなど)や、モダンスタンバイに属さない関連するリマインダーを順延し、ネットワークアクティビティや電子メール等を監視します。システムに関連するアクティビティがない場合は、最良の省電力モードである「最深実行時間アイドルプラットフォーム状態」(DRIPS)」に移行します。
モダンスタンバイのメリット
では、モダンスタンバイモードを使用する主な利点は何でしょうか?
ウェイクアップタイムがより速い
従来のS3と比較すると、システムがウェイクアップしてからの応答が速く、S0よりも多くの電力を節約できることが、以下の図1と図2から分かります。
図1:システムの状態と復帰時間
図2:システム状態と電力消費
広く利用されるシステムがサポートする
プラットフォームのサポートに関しては、Ice Lakeシステムの約70%が、Tiger Lakeシステムについてはほぼ完全に、モダンスタンバイをサポートしています。手元のシステムがモダンスタンバイをサポートしているかどうかは簡単に確認できます。コマンドプロンプト(CMD)から以下の一連のコマンドを入力するだけです。「powercfg / a」と入力してEnterキーを押し、「Standby list」に「S0 Low Power idle」と表示されれば、システムが完全にサポートしていることを示しています(下の図3を参照)。モダンスタンバイによってもたらされるインスタントウエイクの体験を楽しむことができます。
図3:コマンドプロンプトのStandby list例
多様なハードウェアに対応
システムストレージメディアとモダンスタンバイの関連性はどうなるでしょうか?システムストレージメディアのサポートについては、いくつかの側面に分けることができます。1つは最も一般的なSATA SSDで、スタンバイ中のバッテリー寿命を効果的に改善できるデバイススリープ(DevSlp)をサポートしています。もう1つは主流のストレージメディアNVMe(PCIe)です。PCIe Power State L1.2をサポートすることにより、ストレージメディアをより効果的に低電力モードにすることができます。
ハイブリッドストレージメディア(SSD+HDD)は、フラッシュメモリーにデータを保存することで復帰時間を短縮し、ヘッドスピンにかかる電力を節約するというニーズを実現できます。従来の回転ストレージメディア(HDD)がモダンスタンバイをサポートする場合、通常HDDバッファーを増やす方法を使用しますが、磁気ヘッドの読み書き速度は、書き込み用ヘッドが書き込みに要する時間により復帰(resume)時間に影響を与え、ヘッドの回転により消費電力が増加します。要するに、モダンスタンバイのサポートには、高スペックなハードウェア要件は不要で、既存のハードウェアで効果的にサポートできるのです。
モダンスタンバイ認証仕様とテストの策定
関連するコンポーネントモジュールが仕様を満たしていることを確認するために、Intel社とMicrosoft社は、Intel Reference Validation Platform(RVP)と様々なコンポーネントに基づいて、対応するモダンスタンバイ認証仕様と認証テスト(Modern Standby Compliance Process)を策定しました。
アリオンはIntel社が承認したモダンスタンバイ認証テストラボであり、Intel Modern Standby機能認証テストとMicrosoft Modern Standby機能認証テストを提供しています。様々な機器コンポーネントに関連する検証を実施し、認証を取得することができます。
図4:モダンスタンバイ認証の試験対象
モダンスタンバイ認証テストではPCが低電力に入った後に、デバイスが消費する電力を測定しました。ACPIはシステムがアイドル状態の時にスリープモードになることをD3と定義しています。D3は「D3 コールド」と「D3 ホット」に分けられ、これら2つともモダンスタンバイ電源ステータスに属していて、D3コールドはD3ホットよりも省電力です。基本的にこの状態は電源が完全に切断されており、ディープスリープモードに入ると、システムの消費電力量はマシン全体のバッテリー寿命にも関係します。復帰時間もモダンスタンバイの非常に重要な項目で、この仕様は、ユーザーに優れた操作エクスペリエンスを提供するために、1000ミリ秒以内にシステムを復元することが必要です。よりクリアにご理解いただくため、主流のNVMeストレージシステムを使用してカギとなる要素を解説します。
NVMe – D3 ホット
こちらのテストケースから、D3に入った後に測定された電力(mW)の平均値がわずか1.5 mWであることが分かります。Exit Average Latency仕様は1000ミリ秒以内である必要があり、NVMeの観点から、450msでスリープモードからウェイクアップできます。また、PCIeのNVMeを介したストレージメディアの部分もユーザーのリアルタイムエクスペリエンスに合致しています。ユーザーが電源を押すと、1秒以内にシステムは正しくウェイクアップし使用可能となります。
図5:D3 ホットにおける電力測定値とExit Average Latency測定値
NVMe – D3 コールド
こちらのテストケースから、D3に入った後の電力測定(mW)の平均値は0mW(<1mW)であることが分かります。NVMeの観点から、この部分はシステム電力をほとんど消費しません。Exit Avg Latencyが500ミリ秒で、NVMeとD3 hotは全く電力を消費しないスリープモードで、スリープからウェイクアップするのに500ミリ秒しかかからないため、節電且つ高速であると言えます。
図6:D3 コールドにおける電力測定値とExit Average Latency測定値
要約すると、モダンスタンバイはハードウェアとソフトウェアのサポートを通じて、高速且つリアルタイムのシステム復帰を提供します。特に、消費電力の心配は不要です。新世代のテクノロジーにより、スタンバイモードで消費される電力はわずかで、システムはユーザーにより長い使用時間を提供することができます。アリオンが持つ完全なモダンスタンバイのテストサービスは、コンポーネント側の検証から、システム上のコンポーネントが全て関連する認証仕様をクリアし、商品が優れたユーザーエクスペリエンスのニーズを満たすことを保証します。
アリオンのモダンスタンバイ検証テストにご興味をお持ちの方は、service@allion.co.jp までお気軽にお問い合わせください。