この投稿は前回の続きです

スマートアシスタントはエンタメ情報の提供や天気やレシピといった情報検索、そして家庭内やオフィス、ホテルにあるスマートデバイスの操作や管理といった様々な用途で利用されています。一般的に、スマートアシスタントが命令を実行するためには、無線ルーターと接続してオンライン状態にする、Bluetooth経由でスマートフォンと同期させる、といった他のデバイスとの連携が必要です。

アリオンで接続性を確認するために無線ルーター20台、スマートフォン20台、そしてスマートアシスタント6台を様々な組み合わせでペアリングした際、一部の組み合わせで互換性に問題があることが浮き彫りになりました。今回は、Wi-Fi/Bluetoothの認証を取得した製品であっても、市場にある様々な製品同士による複雑なマッチングによっては、互換性の問題が発生する、という現象について述べています。アリオンが行なったWi-Fi/Bluetoothの互換性検証の結果をベースに、通信遅延、接続の失敗、UXの不一致、製品同士の接続性に起因する機能の欠陥について説明します。

 

よく使われるスマートアシスタントの機能

スマートアシスタントの機能の中で、成熟期に達している技術はエンターテインメント系の用途(例:音楽、ラジオ等)で、スマートアシスタントを所有する人たちの多くは、これらを利用している傾向にあります。米Voicebot AI.の調査によると、2018年1月には75%を超えるユーザーがスマートアシスタントを経由して音楽を聴いていることがわかります。Kim Bayley氏(CEO of Entertainment Retailers Association)とGeoff Taylor氏(CEO of BPI and BRIT Awards)の両氏も「80%以上のスマートアシスタントユーザーは音楽再生に利用している」(Everybody’s Talkin’ Smart Speakers & their impact on music consumption, p. 25)とレポートしています。

Figure 1: The Data Cites from Voicebot AI.

 

Wi-Fi互換性問題

スマートアシスタントで音楽を再生する方法として一般的なのが、Wi-Fi経由でAmazon MusicやYouTubeといったサービスに接続する方法です。アリオンが検証を行った結果、市場にある製品同士の組み合わせでもWi-Fiの互換性問題が発生することが分かりました。有名企業から販売されている6台のスマートアシスタント(Amazon, Lenovo, Xiaomi, Alibabaなど)と20台の無線ルーター(Apple, Google, Belkin, Netgearなど)を様々な組み合わせで接続することで、いくつかの組み合わせでは通信遅延と接続不良を確認しています。こうした問題は、ユーザー満足度を著しく低下させる恐れがあります。

Figure 2: Test Bed (Wireless Access Points) shows in Allion’s Device Library

 

 接続遅延 

スマートアシスタントは、ユーザーから音声による命令を受けた際、インターネット経由でデータベースに接続し、適切な応答を行っています。アリオンは6台のスマートアシスタント(それぞれ個体名をP, M, I, A, DそしてLとする)から20台のルーター(アルファベット順にA~Tと命名)を経由してアーティストの曲を10回再生させ、その応答時間(秒)の平均値を調べました。また、Pingコマンドを使用して全てのルーターとスマートアシスタント間のスループットを測定しました。

Figure 3: Test “P, M, I, A, D, and L” smart assistants with 20 wireless routers (A-T)

残念ながら、スマートアシスタント“I”, “A”, “D”の平均的なスループットは、接続先のルーターによって大きく変化していることが分かりました。例えば“I”の平均スループットは17.52~149Mbpsと、大きな幅がありました。DUT(Device Under Test: 被試験機器)とテストベッドとの間の距離を広げると、平均スループットは4.25~115.23Mbpsになります。また、“D”は長距離という条件下では5.67~235.06Mbpsと大きな差がありました。スループットの変化の大きさは、DUTの応答時間と負の相関関係があり、長時間の待機時間を発生させました。

 

 接続の失敗 

待機時間の問題以外にも、スマートアシスタントとルーターの接続障害が発生する場合があります。その原因は、相性問題です。例えばスマートアシスタント・ブランド “P”は、PCや携帯電話など様々なデバイスのメディアコンテンツを、同じWi-Fiネットワーク上にあるスマートアシスタントにストリーミングできるアプリを開発しました。しかし、初期設定のプロセスでは、モバイルアプリの接続リクエストを受信した後、ルーター“B”とスマートアシスタント“P”との間で接続障害が発生しました。これが原因でシステム全体がクラッシュしてしまう恐れもあります。

 

Bluetooth互換性問題

スマートアシスタントはBluetooth経由でスマートフォンと接続し、個人の持つメディアコンテンツ(音楽、動画など)を同期させることができます。20台の携帯電話(Apple, Google, Sony, OPPOなど)を6台のスマートアシスタントとペアリングさせた際、機能不足とUX上の矛盾を確認できました。

Figure 4: Test Bed (Mobile Phone) shows in Allion’s Device Library

 

 UXの不一致 

Bluetooth互換性検証を行っている最中、ある組み合わせのスマートアシスタントとスマートフォンとのBluetooth接続では、スマートフォン側のBluetooth機能をONにすることで自動的に再接続できることが分かりました。しかし、同様の現象が発生しない組み合わせも見られました。米国企業のスマートアシスタントやスマートフォンでは、中国企業のものと比較して自動的に再接続される可能性が低いようでした。これは、スマートフォン側のBluetooth接続をONにした際に自動的に再接続できる場合、スマートアシスタント側がスマートフォン側に接続要求を送信し続けていたことを意味することから、大きな問題であると考えられます。UXの不一致のために電力消費量が増加するのみならず、一部のケースではセキュリティ上の懸念を引き起こす可能性があります。

Figure 5: Test “P, M, I, A, D, and L” smart assistants with 20 mobile phones (A-T)

 

 機能の欠落 

Bluetooth接続の立ち上がりから発見された問題のほか、スマートアシスタントと携帯電話を同期している最中にいくつかの機能不足も見つけました。たとえば、スマートフォン“S”のボリュームバーは、スマートアシスタント“L”, “I”, “A”, “D”のボリュームバーと同期できませんでした。そして、スマートアシスタント“I”では音楽再生時に「次へ」と「前へ」が正しく機能しませんでした。また、スマートフォン“G”とペアリングした場合だと、「次へ」は「早送り」に、「前へ」は「巻き戻し」に変更されていました。

 

検証マッチによる潜在的な問題解明

最初の段落で述べた通信待機時間(Wi-Fi)、接続失敗(Wi-Fi)、UXの不一致(Bluetooth)、機能の欠落(Bluetooth)について、アリオンのエキスパートは根本的な原因を次の通り分析しました。Wi-Fiの互換性問題については、ブロードキャスト技術の互換性がない設計が原因で、2台のデバイス(スマートアシスタント“P”とルーター“B”)の情報交換が失敗した可能性があります。また、テストベッドに組み込まれたチップセットが様々なメーカー(Qualcomm, Broadcom, MediaTekなど)であったことから、互換性のないチップセットが通信速度を落としていた可能性も考えられます。UXの不一致と、スマートアシスタントと携帯電話がBluetooth接続中に見せる機能的な欠陥については、デバイスのAVRCP(Audio-Video Remote Control Profile)とGAP(Generic Access Protocol)の互換性のない設定が原因だったことが考えられます。こうした数々の問題が散見されたにもかかわらず、BluetoothおよびWi-Fiのコンプライアンス試験中に発見されることはありませんでした。

 

結論

アリオンで行ったWi-FiとBluetoothの互換性検証の結果から、無駄な待機時間、接続失敗、UXの不一致、機能の欠陥といった問題原因を分析しました。この結果は、Wi-FiやBluetoothといった標準規格団体に認定を受けた製品であったとしても、市場の様々な製品との互換性に問題が生じる可能性が少なからずある、ということを示しています。

アリオンのエキスパートは、IoT製品が生活の中へシームレスに統合できるよう、様々な製品の組み合わせた試験を設計しています。Wi-Fi認証試験やBluetooth認証試験を提供しているほか、技術コンサルティングやデバッグサポートといった開発支援をワンストップで提供しており、ルーター、携帯電話、その他IoTデバイスを1000台以上、グローバルで保有しています。製造プロセスや市場クレームで見られる遅延や不確実性といった問題点を洗い出すサービスを提供しています。

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